小学生で手品マニアに
在学中にデビューしたものの…
アニメ脚本の世界へ
『機動戦士ガンダム』という名を知っている方は多いだろう。
もう40年近く前の作品だが、昨今でもリメイクや続編が登場する、国民的と言っても良いアニメ作品だ。
今回はシナリオチームの一人として、名作と名高い『ククルス・ドアンの島』や『ジャブローに散る』等の回を担当した脚本家にお話を伺った。
さあ…
脚本家
荒木 芳久様の登場です!
小学生で手品マニアに
小学校の頃から映画やラジオドラマが大好きでしたが、ものを書く、という事にはあまり興味がなくて、放課後は鞄を放り出して外で遊んでいました。
3年の時に母が亡くなって、一人っ子だったので、友達とにぎやかに過ごすのが好きで。
近所に池上本門寺という大きなお寺があって、そこが遊び場だったんです。
ある日、お寺のお祭りで手品グッズの実演販売を見て、魅せられてしまって。
それからはお年玉からお小遣いまで、全部マジックのタネにつぎ込むようになりました。
今でもたくさん持っています。
誰かに披露するというよりは、タネを弄って一人で想像して楽しむような、自己満足の世界でしたけど。
ラジオドラマが入賞!
父は学校の教師をしていて、「小説なんて女子供が読むものだ」という時代を生きて来た人でした。
部屋で小説を読んでいると、静かに様子を見にきて、バレて怒られたり。
高校に入ってからは文学部と放送同好会で、ひっそり活動していたんですが、高校2年の時に父が亡くなってしまって。
それがきっかけというか、それまでも校内放送の台本を書いたりしていたんですが、「放送劇コンクール」に挑戦することにしたんです。
都立高校が対象の、放送劇のコンクールですね。
太宰治の『燈籠』を脚色して、これが3位に入賞。
放送同好会は部に昇格して、学校から活動予算をいただけるようになりました。
これで調子に乗ってきて、自分で脚本を書いてみよう、と決意しました。
在学中にデビューしたものの…
大学受験のとき、迷わず日本大学芸術学部映画学科シナリオコースを選びました。
当時は他に脚本を学べる場所が無かったんです。
部活動は「シナリオ金曜会」というものに入りました。
金曜の放課後、シナリオについてあれこれ語り合うんです。
ある時、顧問の先生が仕事の話を持ち込んでくれました。
警視庁の科学捜査をテーマにした、『警視庁鑑識科学シリーズ』という、いわゆる刑事ドラマ。
部員の中で執筆希望者を募って、警視庁鑑識課を見学に行ってね。
これで僕のが採用になって、放送されたんです。
2本目も書かせていただいて、原稿料もいただいた。
更に、顧問の先生が一緒に仕事をしよう、と何度も誘ってくださるようになって。
それが学部長に伝わってしまって、顧問の先生は免職されてしまったんです。
学校にも居辛くなるし、家庭の事情もあって、2年で中退することになりました。
師との出会い
中退後は出版社で編集をしていました。
『警視庁鑑識科学シリーズ』で知り合った方が、とある月刊誌に紹介してくれたんです。
取材して、原稿を書いて、校正してと、一通りやっていました。
そんな時雑誌で募集を見て、シナリオ作家協会の講座を受講しました。
その講座の先生が、良かったら仕事を手伝ってくれないか、と声をかけてくれて。
師匠は直居欽哉という、東映の時代物などを書いていた脚本家です。
最初の仕事は『日本任侠伝』というシリーズで、「国定忠治」のドラマ化。
主演の三國連太郎さんが分厚い資料を携えて訪れてきたり、良い経験になりました。
この時のプロデューサーさんが東映動画に紹介してくれて、『ひみつのアッコちゃん』に参加することになったんです。
アニメ脚本の世界へ
アニメは初めてでしたが、その時30歳くらいで、アニメ界では年上の方でした。
師匠は、そろそろ好きにやってごらん、という感じでしたが、正直必死でした。
初めの頃は直して直して、最初のが一番良かったね、なんてことも(笑)
あんまり書き直していると、何が書きたかったのか分からなくなっちゃうんですよね。
「月には兎がいる」というネタを書いて、フィルムが完成した後に、丁度アポロ13号が月面着陸した時は、一旦お蔵入りになってしまって焦りましたよ(笑)
その後は『はじめ人間ギャートルズ』に参加したり、師匠から時代劇の仕事を紹介していただいたり。
色々な仕事をしていたんですが、アニメは放送期間が長く、段々実写に関われなくなっていって、いつの間にかアニメ専門ライターみたいになっていました。
『ガンダム』シナリオチームに抜擢
『無敵超人ザンボット3』で、ロボット物に初挑戦し、次の『無敵鋼人ダイターン3』ではチーフとして企画から入らせていただきました。
ちょっと毛色の変わったものがやりたくて、『007』をアニメでできないかと考えたんです。
主人公が潜水服を脱いだらスーツを着ていて、胸には赤い薔薇をさしているという(笑)
第1話で設定や背景をあまり語らず、スピーディに物語を進めながら視聴者を巻き込んでいくスタイルを取りました。
人気が出て、ロボットの玩具も良く売れたようで、企画・メインライターとしては満足のいく仕事ができたと思います。
『機動戦士ガンダム』の脚本は、僕を含めた4人が主となり、富野喜幸総監督が統括する形で進めていきました。
性格も作風も違うライターたちが、1話完結ではない世界を紡ぎ、上手く混じり合った深みが出たのではないかと思います。
「今までのロボット物のような勧善懲悪ではなく人間性を書くこと」「SFの世界に生活感を持ち込みリアルさを出すこと」を課題としました。
第15話『ククルス・ドアンの島』は、そんな思いで生まれたのです。
ドアンは軍を脱走し、自ら作り出してしまった孤児を庇護している、理性を支えに人生を変えた男。
主人公アムロを成長させるために、どうしてもドアンに出会わせたかった。
魅力を感じてくださる方が結構いらしたみたいで、最近、外伝的にこの回が漫画化されています。
ハマった時は一度引く
様々なご縁をいただいて、今まで仕事ができてきたと思っております。
全力で取り組む姿を見ていただいていたんじゃないかな。
スランプというほどではないですが、どうしても書けない時はあります。
意外と楽天的で、あまり落ち込んだりはしないのですが。
例えば、実際の出来事をモチーフにしても、そのままではシナリオにはならないんです。
セリフで説明せずとも、物語に説得力を盛り込まなければならない。
そういった袋小路にハマった時は、一旦離れると、ハッと思いつくものです。
「このキャラ要らなくなったから死なせる」っていうのは無いでしょう?(笑)
取材を終えて
現在はシナリオのお仕事からは引かれているという事だが、執筆活動は続けていらっしゃるそうだ。
ご自分の経験から得た、教育についての文章も構想があるという。
「時代が違う、という言葉を子どもに当てはめるのは納得がいきません」
「いつの世でも、生まれた時がゼロですから、何も変わっていないはずでしょ?」
と語っていただいた。
荒木節のきいた骨太の子育て論、是非読んでみたい。
プロフィール
荒木 芳久(あらき・よしひさ)
脚本家
東京都出身。
1959年『警視庁鑑識科学シリーズ 小判と殺人』でデビュー。
脚本家・直居欽哉氏に師事。
1969年『ひみつのアッコちゃん』で初のアニメ脚本を手がける。
以降『無敵鋼人ダイターン3』『機動戦士ガンダム』『戦闘メカ ザブングル』など、多くのアニメ作品を中心に、様々な脚本をてがける。
『ガンダム』の担当回の一つ、『ククルス・ドアンの島』は現在も多くのファンから支持を得ており、2016年、スピンオフとして「ガンダムエース」(KADOKAWA)にて連載が開始された。
◆スピンオフ作品『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』公式サイト
http://www.gundam-the-origin.net/doan/index.html
取材協力:株式会社アイロリ・コミュニケーションズ/株式会社アイロリ・エンタテインメント