廃業寸前の老舗和傘店の年商を120倍にし、世界に日本の伝統技術を発信するスゴい人!

年商167万円、廃業寸前の会社を継ぐ

「老舗ベンチャー」としての挑戦

誇るべき日本の伝統を世界へ

日本には数々の伝統工芸品がある。
本日登場するのは、京都で150年続く京和傘店「日吉屋」5代目当主の和傘職人。
年商167万円、廃業寸前だったところから、京和傘の技術を活かしたランプシェードを世界のマーケットに発信し、同社の売上をV字回復させた。
更に、同じように存続の危機に瀕している老舗企業のコンサルティングを行い、約130社を支援。
また、和の匠の技と世界のデザイナーとの出会いによって新しく生まれた商品を、日本全国
から取り揃えて紹介するセレクトショップ「わとな WATONA」をプロデュース。
現在、東京・コレド室町3にて期間限定ショップを展開し、好評を博している。
作るところから、届けるところまで、すべてを手掛けているスゴい人の歩みをたどってみよう。

さあ…
株式会社日吉屋
代表取締役 西堀 耕太郎様の登場です!

現在につながる子どもの頃の経験

父が鉄道模型やラジコンが好きだった影響もあり、小さいころからプラモデルやラジコン
など、手で何かを作ることが好きでした。
また、父が地元で英語塾を経営していて、当時は嫌でしたが強制的に英語を学ぶことができました。
地元は合気道の発祥地で、僕の先生は合気道の創始者である植芝盛平さんの一番弟子だったので、海外からも習いに来ている人たちがいて、人と違うことをしても良いんだと思え、他の国の人の生活に興味を持ちました。
今振り返れば、小さい頃の色々な経験が今の仕事に活きていると思います。

夢のために公務員になる

高校卒業後、将来やりたいこともなく、カナダにいる親戚から「興味があるなら来てみたら」と言われてカナダへ渡りました。
カナダでは自分や自国について聞かれる機会がすごく多く、日本について考えるきっかけになりました。
勉強やアルバイト、旅行などをするうちに、人との出会いからやりたい事が見えてきて。
クロアチアで寿司屋をやるのが最初の夢でした。
当時クロアチアには寿司屋が無いと聞き、第1号になろうと思ったのです。
その資金を貯めるために公務員になったのですが、市民のために本気で働いている人に出会い、感化され、教えを受けて、人のために何かをするのはすごくいいなと思うようになりました。

年商167万円、廃業寸前の会社を継ぐ

妻と結婚後も、初めは和歌山で公務員を続けていました。
妻の実家に行くと傘を作っていて、「すごい、かっこいい」と感動したのですが、当時の売上高は年間167万円。
実質ほとんど利益は無く、廃業が決まっている中、何かできないかと試行錯誤を始めました。
同時に傘の作り方を教わるようになり、毎週末仕事が終わると車で片道4時間かけて和歌山から京都に行き、修業する生活が続きました。
それが高じて、日吉屋を継ごうとなったのですが、両家の親は反対。
夫婦二人とも公務員で安定しているのに、100万円しか売れないものをするなんてやめておけ、お前はアホかと言われましたね。
当時僕は市役所で観光課に所属し、インターネットを観光に活かす取り組みをしていたので、インターネットを使って傘を宣伝したら色々な人に知ってもらえるのではと、ホームページを作りました。
これが成功し、注文や来店が増え、売り上げは一千万円まで成長。
退職して、本格的に日吉屋の仕事を始めました。

「老舗ベンチャー」としての挑戦

最初は順調だったインターネットもだんだん鈍化し、一定の需要に達するとそれ以上増えなくなりました。
このままでは減っていくだけです。
和傘はきれいで格好良いけれど、毎日使うことはできません。
そこでもう少し身近に取り入れられないかと考え、長く続くものには必ず意味があるはずだと、傘のルーツをたどりました。
和傘は江戸時代に生まれ、昭和初期に最盛期を迎えましたが、高度経済成長でライフスタイルが西洋化したために生活から離れ、伝統芸能などでしか使われなくなってしまいました。
最初から「伝統」として生まれたものはありません。
時代によって伝統も新しさも変わる。
時代に合った形へ、イノベーションを起こし続けていくことが伝統だと考え、老舗というものを使った「老舗ベンチャー企業」としてやり直そうと決意しました。
こうして約3年かけて、今の主力商品である照明器具が生まれました。
照明器具ができたことで年商2億円、従業員16人にまで成長しました。
伝統の技を使った商品で食べられるようになったのです。

「グローバルニッチ戦略」で世界の市場を開拓

照明器具は日常で使えるものとはいえ、ニッチな商品です。
そこで考えたのが「グローバルニッチ戦略」。
1か国の市場が小さくても、国が増えれば市場をひろげられると思い、早い段階から海外市場を開拓しました。
最初の頃は人がいないので、海外での展示会にも妻とまだ2歳の子どもを連れて行きました。
後から考えたら大変なこともあったと思いますが、自分が作ったものを気に入って買って頂けることは嬉しく、楽しかったです。
家族の協力なしにはここまでできませんでした。
本当に感謝しています。

失敗をおそれずにトライする

商品開発から販路開拓まで、誰にも教わらず、実地で失敗しながらやってきました。
失敗はあまり恐れません。
リスクを取らずにうまく行くことは無いと思っています。
カナダで他国の人と出会い、日本が恵まれていることを実感しました。
日本なら、少々失敗してもどうとでもなる。やり直しがききます。
自分が良いと思ってトライしたなら、失敗しても、もう一度やり直せばいい。
自分が良いと信じられるなら、必ず結果はついてくるはずだと思えたのです。
結果的に、共感してくれる方々が助けてくれて、チームでやれば必ずできると実感しました。
たくさん失敗しますが、失敗から学んでより洗練され、成功に近づいていく。
人生は1回しかないので、自分が好きでやりたいと思ったことで生きていける方が後悔しないと思っています。

困っている人がいるならシェアしたい!

コンサルティングは、日吉屋がうまく行き始めた頃に「どうやっているんですか」と人に聞かれたことから始まりました。
他に困っている人がいたらシェアしたいと思ったのは、公務員をしていたからかもしれません。
日吉屋を継ぐ際には比較的障害は少なかったのですが、他の業界の支援を始めて、新しいことへの抵抗勢力はあると感じています。
ただ、その人たちが守ってくれるわけではありません。
今のままでは確実に先細り、作り手もいなくなることがわかっている状態で、何もせずに途絶えさせるのか、可能性があるならやるのか。
必ず成功するという保証はできないけれど、僕も現役の職人で自分がやってきた実績があるので、トライしてみようと思ってくれる人も多いのだと思います。

誇るべき日本の伝統を世界へ

伝統工芸は日本の誇るべき財産ですが、全国的に斜陽産業の代表格です。
伝統だからこれでいいんだ、ではなくて、努力しないといけない。
伝統の技を使った商品で食べていけるようにしないと、誰もやらなくなってしまいます。
自分で買いたいものを作れているか、いつも問いかけますが、我が家の照明はすべて日吉屋の照明ですし、「わとな WATONA」で販売している他の職人の商品も、良いと思うからつい買ってしまいます。
「わとな WATONA」のコレド室町への出店もリスクをとった大きな挑戦です。
伝統だからと、うんちくを言ったところで買って頂けるわけではありません。
だけど欲しくなった商品が、実は着物や漆器、江戸切子、ねぶたなどの日本の伝統的な技術で作られた商品だったら更に喜ばれるかもしれません。
トライしている職人がたくさんいるので、一人でも多くの方に知ってもらいたいです。

取材を終えて

コレド室町の「わとな WATONA」の店舗にお邪魔しました。
店内には着物の技術で作られたバッグ、花結晶という伝統的な技術を用いて作られた普段使いできる食器、風呂敷と革のハンドルでできたバッグなど、衣類から食器、文具まで様々な商品が並んでいて、どれも私には目新しく見えました。
西堀さんが仰っていた「良いなと思って手に取ったものが、実は伝統的な技術で作られていた」まさにその通りでした。
きっと大変なことはたくさんあったでしょうし、毎日お仕事は深夜までされているそうですが、全部「楽しい」と仰るその表情が本当にイキイキとしていて、魅力的でした。

プロフィール

西堀耕太郎(にしぼり・こうたろう)
株式会社日吉屋 代表取締役
株式会社TCI研究所 代表取締役

1974年、和歌山県新宮市生まれ。高校卒業後カナダに留学。
帰国後地元市役所勤務を経て、結婚と共に老舗京和傘工房「日吉屋」の5代目を継ぐために和傘職人の道を選ぶ。
国内外のデザイナー、アーティスト、建築家達とのコラボレーション商品の開発にも取り組んでおり、2008年より海外展示会に積極的に出展。
和風照明「古都里-KOTORI-」シリーズを中心に海外輸出を始める。現在世界約15カ国に展開中。
2012年日吉屋で培った経験とネットワークを活かして、日本の伝統工芸や中小企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援するT.C.I. Laboratory(現:株式会社TCI研究所)を設立し、代表に就任。延べ約130社以上の企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援。
2015 年に前エルメスインターナショナル副社長・齋藤峰明氏が総合ディレクターを務め、フランス パリ市内マレ地区でオープンした、日本の職人技術の新たな可能性を発信するユニークなアトリエ「アトリエ・ブランマント(Atelier Blancs Manteaux)」の共同経営に参画。日本の優れた商品や商材のプロモーションや販売を行い、海外デザイナーとの共同商品開発等も手掛ける。

◆日吉屋 http://www.wagasa.com/
◆株式会社TCI研究所 http://www.tci-lab.com/
◆わとな WATONA http://watona.co.jp/
期間限定ショップ:6月14日(水)~9月24日(日)
場所 : コレド室町3・3階 (東京都中央区日本橋室町1-5-5)

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