漫画人生の哲学。試行錯誤の1本目から長期連載を取ったスゴい人!DAY2

賞も獲れず、芸大にも落ち、行きたいアシスタントも断られた――。そんな八方塞がりから夢を追いかけるスタートを切った漫画家、高橋幸慈さん。しかし、その後、大学を出てからはわずか数ヶ月で『週刊ヤングジャンプ』で長期連載を掴みました。不屈の精神と夢を手放さない強さは、高橋さんが持つ哲学に裏打ちされたもの。四半世紀以上、漫画家として第一線で活躍してきた高橋幸慈さんの漫画家としての生き方について伺いました。

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 何んとかなる! 

 

目的は読者が面白いと思う漫画。誰のために描くのかを見据えて模索

──『押忍!!空手部』は空手がベースですが、技や流派は現実にはないものですよね。

ありません。オリジナルです。空手は流派も技も多いので、最初は本を読んで、組み合わせたりして考えています。

適当に技名をつけているようで、一定のルールもあります。例えば蛇拳が出てきたら蛇系の技の使い手は他には出せない。これは結果としてキャラクター立ちする効果もあります。

 

──空手という題材は漫画として描きやすかったのでしょうか。

空手には下地がありますから。『空手バカ一代』という漫画が有名で空手ブームが起きたので、「空手といえば一撃必殺」という世間のイメージができています。そのおかげで、喧嘩漫画でも空手をやっているとあれば、強いというイメージができるんです。

 

──『押忍!!空手部』の長期連載が終わって、すぐに『超格闘伝説 あした輝け!』の連載を初められましたが、ちょっと休んでおきたいと思ったりはありましたか。

ありました。けれど読者の期待もありますし、人気がある内に次をやってほしいという編集部の意向もありました。その間に読み切りも描いていましたよ。

 

──『超格闘伝説 あした輝け!』を描こうと思ったのはなぜでしょうか。

男性のプロレスはショーみたいなものなので、著作権があるんです。だからリアルに描けない。

その頃、女子プロには北斗晶さんやアジャ・コングさんが活躍していました。

「これだけ女子プロで頑張っている女の子がいる!この女の子の『熱』を漫画で描いてみたい」

そう思ったのがきっかけです。

ただ、男性読者はついてこないという懸念はありました。ビューティーペアのように、きれいで強い女性に女性が憧れるという図式はあるんですが、男性読者には正統派の女子プロレスはあまりウケがいいものではなかったんです。

 

──次は『わっぱ烈伝 爆造』というトラック野郎の漫画を発表されていますね。

読者層で一番多いのがサラリーマン。その次に多いのが、工場など現場仕事の男性が多かったんです。彼らに向けた漫画を描こうと思いました。子供の頃、自分自身も子供の頃、『トラック野郎』が好きでしたし。あの面白さが描けないかと思って、破天荒なトラック野郎の話にしました。

ところが実際描いてみたところ、トラック運転手として働いている読者の方々から「僕らはもっと真面目に働いています!」とお叱りを受けました(笑)。

想像の世界が、自由な世界ではなくなってきたと感じました。

叩かれる物語は「ありえねえよ」と判断されて感情移入できなくなってしまいます。だからどんなに破天荒な主人公や物語だとしても、感情移入できる漫画にすることが大切です。

『押忍!!空手部』も途中からやっても駄目なんです。最初の立ち上がりがあって、読者に感情移入してもらうからこそ、面白いんです。

 

アンケートハガキは見せてもらう主義。成長するために新しいことを取り入れる

──『押忍!!空手部』は『近代麻雀』で『押忍!!麻雀部』として復活しましたよね。

オファーが来たものの、俺が麻雀誌でやってもなんの武器もないから、自分のカラーで出してみようかなと。自分が麻雀で有名なわけでもない、麻雀に関しては素人です。そのため、自分のこれまでのカラーで読者を引き込んでやってみることにしました。

近代麻雀って凄い専門誌ですから、麻雀のレベルが高過ぎました。本当に麻雀が好きな人が読む雑誌なので、読者からお叱りを凄い受けましたね(笑)。

破天荒な作品でも麻雀部分はシビアに描かれているものが多いのが専門誌で、読者もそれを好む人が確かに多いんです。しかし、それは専門誌の中で売れているということで、麻雀をやらない人までは広がらない。ですから、もうちょっと初心者でも入れるような作品になればとも考えていました。

 

──雑誌ごとにターゲット層がありますが、売れ筋を狙ったりはされるのでしょうか。

狙ってもいいけれど、その層に圧倒的に支持を得られないと、他の作品と人気で負けてしまいますから。入り口から狙わないと、それは難しいんじゃないでしょうか。

単行本の売れ行きは1週間で決まります。好きなものを描いていても人気が上がらない場合は、テコ入れを考えなければ数字は上がりません。できる人はそうやって続けていくし、できない人はそのうち消えてしまいます。

人気アンケートは作家にはあまり見せないものですが、自分は見せてもらっていました。人気を肌で感じることで、次に何を仕掛けようか考えています。

作家によっては、これは避ける人もいます。批判がダイレクトに来るから怖いんですよね。

 

──漫画家としてのこだわりを伺えますか。

特にありません。こだわりがないから、新しいことを取り入れやすいんです。こうした方が得だというのがわかるタイプなんですよ。いいところをつまんで、取り入れていく。好きなものを描こうというよりビジネスライク寄りな考え方で、あまり他の作家にはいないんです。強いて言うなら、これが自分らしさじゃないでしょうか。

 

──デジタルツールも積極的ですよね。pixivにも惜しみなく絵を公開されていらっしゃいますし。

絵のテクニックの勉強になるので見るようにしているんですが、皆さん絵師なので絵が上手すぎて、いかに自分が下手なのか思い知らされて落ち込むので、最近はあまりみないですね(笑)。

 

これからの世界で漫画を描くということ

──今はアシスタントさんも働き方が変わってきたんでしょうか。

当時は、最初に独身1DKの部屋から始まって、徐々にアシスタントを増やしていかないと追いつかないので部屋をどんどん大きい所に変えていって、最後は家を買うんです。

バブルの時代なので、不安定な漫画家でも銀行がお金を貸してくれましたね(笑)。あの頃は部屋を借り換えしていくのは労力も出費も大変でしたが、今はデジタル化が進んだので、ネットワークを通して原稿をやり取りする在宅スタイルが増えました。

食事代や交通費も無くなりましたし、大きい家を買わなくてもいいので、連載スタート時の新人漫画家の負担はかなり軽くなったので連載しやすくなったと思います。

 

──デジタル化といえば配信漫画も増えていますよね。

漫画を世に発表する手段は格段に広がっていると思います。でも、編集さんがついてないので、中々ヒット作を作れる人は少ないんじゃないでしょうか。どんなに才能のある人でも一人で完璧に作るのは難しいです。

悪い所、分かりにくい所を的確に指摘してくれて、いい所はどんどん褒めて伸ばしてくれる。

落ち込んだ時ハッピーな時、共に分かち合える。

そんな人がいるだけで、作家の才能は何倍にも大きく開花します。音楽でもそうですが、ヒット作とは、作家の才能以外に名編集や名プロデューサーがいてこそ、完成されるのだと思いますねぇ……。

 

 

──これからの展望をお聞かせください。

『釣りバカ日誌』の原作やまさき十三先生や『風の大地』の作画かざま鋭二先生とゴルフしたりするんですが、70代過ぎてもメジャー誌で執筆されていてゴルフが元気にできるのを見ると、素直に『あんな風に、なりたいなぁ』と思います。

先生方くらいまで現役で漫画を描いていたいんですが、70代で『漫画家』って言えるのって、漫画家になる事より難しいんじゃないかな(笑)。

 

──ありがとうございました。

インタビュー:アレス  ライター:久世薫  校正:守安法子

 

高橋 幸慈(たかはし こうじ) プロフィール:

大阪府四條畷市出身。高校生の頃まで漫画を読んだことがなかったものの、初めて読んだ『がきデカ』(秋田書店)に感銘を受け、漫画家を目指す。大学卒業後、何も決まらないまま単身で上京。編集から見込まれ、同年に『週刊ヤングジャンプ』で『押忍!!空手部』連載を開始。ギャグ漫画路線からバトル漫画に路線変更した後に、43巻に及ぶ長寿作品となる。代表作は『押忍!!空手部』の他に『超格闘伝説 あした輝け!』『わっぱ烈伝 爆造』等。プライベートではゴルフやキャンプをたしなみ、筋トレも欠かさないアクティブな面を持つ。

 

Twitter:https://twitter.com/370119

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