ひょんなことから人工知能の研究へ
世界初の挑戦
脳に無駄なことはない
最近何かと耳にする「AI」というワード。
いわゆる人工知能だ。
科学の進歩により私たちは多くの恩恵を受けている。
本日登場するスゴい人は、そんな人工知能の研究に約30年前から携わり、世界初の日本語対応コンピュータを作ったスゴい人。
現在は人工知能、脳科学、感性の研究を極め、幅広く活躍している。
「世界初」という未知の世界に挑むに当たって様々な苦労が重なった。
どのように重圧を乗り越えたのだろうか。
さあ…
株式会社感性リサーチ
代表取締役 黒川 伊保子様の登場です!
言葉に興味を持った幼少期
小さい頃から、私の名前って体の力が抜けちゃう名前だなって思っていたんですよ。
「いほこ」って名前は発音すると、横隔膜が上がり切るので、肺の中の空気が出きっちゃうんですね。
2回呼ぶとヘトヘトになるので、両親が私を叱ると何を叱っているのかわからなくなるんですよ。
結構、得な名前で。
あるいは、友達が何か相談ごとで私に話しかけるときに、「いほちゃん」って呼べば、緊張感が抜けてホッとするのがわかる。
ところが、私の弟が「けんご」で、体に力が入る名前で正反対なんです。
両親が「けんご」と言うとつい小言が出てしまうんですね。
そんなわけで、幼いころから、人の体に力を入れてしまう言葉、抜いてしまう言葉があることに気づいていました。
文系から理系の世界へ
高校1年生まで文系志望で「言葉の音と体の関係性を研究したい」と先生に相談したら、そういう研究はどこにもないと言われ、困ってしまいました。
ちょうどその頃、特殊相対性理論入門の本を読んで、面白いと思いました。
私が知りたかった言葉の音の身体効果は、ある意味身体に起こる物理効果なので、この考え方ならもしかすると理論やかたちにすることができるかもしれない。
そう思って、物理学を学ぶために理転しました。
国立理系進学クラスに入ったら男子50人と女子5人でした。
高校生50人の男子ってすごく臭いんですよ、もう体育の時間の後なんか耐えられなくて。
理系の学科は女子僅少なのは目に見えているので、これは絶対女子大に行くと決めて、純粋な理論物理学が学べる奈良女子大に入学しました。
名前の美しさに魅せられて
奈良女子大で4年間、宇宙創生の謎を解く素粒子の研究をしました。
奈良女子大は、女子大のために生え抜きの物理学教授が少なく、京都大学や筑波大学から教授が来ている関係で、広い視野に触れることができました。
どちらも、ノーベル賞を取った大学ですからね。
またスタンフォード大学と共同研究をしたり、NASAの有名な研究者も授業に来てくださって、超一流の学問に触れることができました。
これはある意味、「ちょっと行ってみてもいい」と思わせる古都にある女子大の特権かもしれません。
もともと文系の私には、最先端の素粒子論はとても難しくて、卒業するだけで精いっぱいでした。
本来やりたかった言葉の音の研究はすっかり忘れていて。
ただ宇宙創生の謎を解いてもご飯を食べられないので、就職先は、まったく別目線で選びました。
当時、コンピュータ業界が女子の採用を増やしていて、大学に届いた求人を見ていたら「富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ」を見つけました。
社名の発音があまりにも美しくて、そこに行こうと決めたんです。
面接の時に「何が気に入りましたか」と聞かれて、「会社名が美しいからです」と言ったら採用が決まりました。
ひょんなことから人工知能の研究へ
会社では、男性脳型の職能システムの中で要領がつかめず、ちょっと落ちこぼれていましたね。
1983年入社なんですけど、この年は後に日本のAI元年と呼ばれることになりました。
というのも、この国で明確に人工知能研究が始まった年だから。
人工知能の基礎研究機関である新世代コンピュータ技術開発機構、通称ICOTと呼ばれた組織が本格稼働した年です。
人工知能の研究は、世界では1950年代から始まっていました。
特に軍隊を持つ国では、軍事インテリジェンスのために研究が進んでいました。
敗戦後の日本は第一次AIブームには乗れず、1980年代まで人工知能という肩書を持った研究室も研究者もいなかった。
しかし、80年代初頭には、2015年には人工知能の時代に突入すると予想されていました。
そこで、日本にも人工知能の基礎研究を培わなければということで、時の通産省が先の研究機関を立ち上げました。
ここに多くの若手技術者が割かれたんですね。
私がAIフィールドに行くことになったのは、落ちこぼれだったから。
「人工知能なんて先の分からないことに将来のある男の子をやれない。一番できない女の子から連れて行って」という直属上司のセリフのおかげで(微笑)
いま考えると、そのおかげで、時代の最先端に躍り出ることになりました。
世界初の挑戦
対話研究をしていた私に、90年代終わりごろ、日本語対話型のデータベースを作って欲しいと発注が来ました。
原子力発電所の技師向けのデータベースです。
全国の原子力発電所から、日に40件ぐらいの問い合わせがあるデータベースでした。
当時は、機械語に近いSQL文というものを使うので、コンピュータの専門家でない技師さんたちは時間がかかります。
1件につき20~30分かけて問い合わせをするので、ストレスフルでした。
そこで、日本語で気軽にやりとりできるデータベースを作って欲しいというご要望でした。
当時の大型機の環境では、日本語で話しかけて、それを理解してコンピュータが何かしてくれることは夢のまた夢だった頃。
はじめは「無茶な話ですよ、絶対責任を持って受けられない」と言ったけど、最終的には私も好奇心が湧いて「やりましょう」って。
プロジェクトリーダーを任されて、とても大変でした。
1991年4月に稼働予定なのに、2月時点でまだ動いていなくて。
2月は28日しかないのに、残業時間は110時間を超えていましたね。
妊娠3ヶ月で、つわりもある中でした。
そして何とか、4月に稼動できました。
これが世界初の日本語対応コンピュータだったんです。
その時のことをあまり思い出せないんですけど、精神的に極限まで追い詰められていたのでしょうね。
脳に無駄なことはない
脳には欠点がありません。
欠点に見えるものも全て、その脳の長所を支えるためにあるんですよ。
例えば部屋が散らかった人は、人が気づかないことに気づくんです。
女性はおしゃべりをするから、プロセスを解析できる。
男性はおしゃべりをしないから、その信号を使って空間認知ができる。
脳は無駄なことは一切しないし、欠点がない。
だから無駄に思えたこと、欠点に思えたことも、全部その裏で何かその人のプラスになっている。
私にとってはそれが、人生を考える時の一番のフィルターです。
理想があるから失敗があるでしょ。
私は一回も理想を掲げたことがないので、失敗と思ったことは一切ありません。
失敗した時も何か理由があるなと思っていて。
そもそも成功したくなかったのよ、私の脳はこっちの方向じゃなかったのよって。
失敗したことが脳にフィードバックされて、同じ失敗をしないようになる。
あるいは失敗したという現象が、今後起こりうる他のことから守ってくれると思っています。
取材を終えて・・・
黒川先生からお聞きする男性脳と女性脳の違いは、本当に「あるある」ばかりで、だからそうなるんだ!!と感動します。
男性ばかりの人口知能研究者のなかで女性開発者だった先生は、現場で話が通じない苦労が多くあったので、女性脳の好むプロセスを語る共感型対話と、男性脳が好むゴールを目指す問題解決型対話がまったく別のハンドリングで、混ぜては作れないことに気づかれたそうです。
「うまくいかないこと」からこそ、人生を照らす成果を手に入れることができるんですね!とおっしゃっていました。
男性脳と女性脳の違いもなんだか愛おしく感じてしまいました。
プロフィール
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
株式会社感性リサーチ代表取締役
1983年 奈良女子大学 理学部 物理学科卒
(株)富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて、14年に亘り人工知能(AI)の研究開発に従事。世界初の日本語対応コンピュータを開発する。後にコンサルタント会社勤務、民間の研究所を経て、
2003年 (株)感性リサーチを設立、代表取締役に就任。
2004年 脳機能論とAIの集大成による語感分析法『サブリミナル・インプレッション導出法』を発表。サービス開始と同時に化粧品、自動車、食品業界などの新商品名分析を相次いで受注し、感性分析の第一人者となる。
2005年 倉敷芸術科学大学非常勤講師就任
2006年 大前研一アタッカーズビジネススクールで、感性マーケティング講座を開講
哲学者 鶴見俊介氏から戦後の思想家20人の一人として選ばれる。
◆黒川伊保子オフィシャルサイト
http://www.ihoko.com/
◆著書
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他著書多数 Amazon著者ページはこちら http://amzn.to/2va92Cl