世界初の料理アニメとなった『ミスター味っ子』を描いたスゴい漫画家!

病弱だった少年時代

崖っぷちから漫画家へ

自分だけの「突き抜け方」

近年アニメ化・ドラマ化が相次ぐ「グルメ漫画」は、漫画界で今注目されているジャンルの一つです。
その中でも記念すべき初のアニメ化を果たした作品をご存知でしょうか?
「うまいぞ〜!」「精進せいよ!!」などのセリフを覚えている方もいらっしゃるでしょう。
その後も『将太の寿司』『喰いタン』がドラマ化されるなど、グルメ漫画の歴史に王道を刻んだスゴい人!

さあ…
漫画家
寺沢大介様の登場です!


病弱だった少年時代

子どもの頃は体が弱くて、小児喘息を患っていました。
外で遊ぶこともできないので、本を読んだりテレビを見たり。
漫画家には多いと思うけど、休み時間も教室で遊んでいるような子ども。
読書が大好きで、本ばっかり読んでいたから小学生からメガネをかけ始めたんです。
それこそ昔の漫画に出てくるような「ひ弱なメガネっ子」キャラでした。

漫画との出会い

親類の家に、古本屋さんからもらったのか、昔の漫画が沢山ありました。
それを借りてきて真似して描いていたら、父が不要な紙の束を会社から持ってきてくれまして、その裏にひたすら漫画の模写をしていたのが原体験です。
影響を受けたということであれば、石森章太郎先生は大きかった。
『仮面ライダー』や『サイボーグ009』がとても好きでした。
テレビでは『宇宙少年ソラン』『少年忍者風のフジ丸』『8マン』。今でも主題歌を歌えます。
特撮は『ウルトラQ』『悪魔くん』。結構怖くてね。
外で遊べなかった分、色々な世界を見せてもらいましたよ。

「壁は高かった」初めての持ち込み

漫画雑誌の投稿コーナーをみたりして、初めて本格的な漫画を描いたのは高校生の時。
でも「スクリーントーン」を知らなくて、「この点はいったいどうやっているのかな」と不思議に思っていました。
大学入学をきっかけに上京し、出版社に持ち込みを始めました。
賞の選考に引っかかりはするものの、佳作止まりで…「漫画はちょっと無理かな」と諦めムード。壁は高かった。
とはいえ、いわゆる会社員も「どうなんだろう」と思っていました。
就活の時も会社資料を全部読む事すらイヤでしたし、漫画ではだいたい会社って否定的に書かれているし。
今考えれば入っておけばよかったな、なんて思いますけど(笑)

フリーのイラストレーターに

結局、漫研の先輩に仕事を紹介してもらって、フリーのイラストレーターになりました。
弟も上京してきて、神奈川の藤が丘で同居を始めてね。
イラストを描いて、散歩して、モーニングを食べて、読書して…あれはあれで気楽な生活でしたね。
しばらくして、遠くて打ち合わせがしにくいからと、下北沢に転居しました。
ところが新築なのに湿気が酷くて、生活に困るぐらいアトピーが悪化してしまいまして。
26歳で、療養のため帰郷したのですが、今みたいに携帯もメールもないし、打ち合わせもできなくて、仕事が来なくなっちゃった。
親にも「就職してくれ」と泣かれて、社内報のイラストを描くような仕事の面接を受けました。
「通勤するのはイヤだな」と思って「在宅で大丈夫ですか?」と尋ねたら、お断りされちゃいましたが(笑)

崖っぷちから漫画家へ

大学の後輩が「週刊少年マガジン」の編集部に入ったというので、「もう一回漫画をやってみよう」と、持ち込みをしてみました。
当時流行っていた「学園青春漫画」を描いてみたのですが、気安さもあったのでしょう、結構なダメ出しをもらいました。
当たり前の話で、キャリアを積んだプロの「こんな感じだろう」と、ド新人の「世の中はこんなもんだろ」が同じ訳がない。全然通じない。
いよいよ行き詰まって、本当に最後のつもりで、一番好きな「ファンタジー漫画」を描きました。
子どもの頃から好きだった『指輪物語』のような、古代が舞台の剣と魔法と冒険の世界。
担当が黙って読み、最後に「面白い」と言ってくれました。
これが初掲載となった『イシュク』です。
反応が良くて、その後の作品も新人漫画賞をいただきました。

代表作『ミスター味っ子』誕生!

このタイミングで、五十嵐編集長が「月刊少年マガジン」から異動してきます。
赤塚不二夫先生の作品にも登場するような、伝説の編集者ですね。
そして「月マガ」の人気作と同ジャンルの連載を「週マガ」でも立ち上げる、という企画が生まれます。
その中で、ビッグ錠先生の『スーパーくいしん坊』のような、「料理漫画」が欲しかったようです。
「週マガ」読者の年齢層にマッチした、子どもらしい絵を描ける作家、ということで僕に白羽の矢が立ちました。大抜擢です。
新人賞に入選してから、というお話しだったのに、佳作でいきなり週刊連載になりました。
料理漫画なんて描いたことがなかったし、最初は沢山ダメ出しをされて。
『スーパーくいしん坊』を見せられて、「こう書け!」と言われました。
ビッグ錠先生は、主人公と同じくらい料理を立てていらっしゃいました。
「料理漫画は料理も主役」そこをキチンと表現できないと面白くならない、と。
試行錯誤を繰り返しながら、段々理解していきました。

自分だけの「突き抜け方」

『ミスター味っ子』が講談社漫画賞をいただいたとき、「あんまり美味しそうじゃないけど、努力賞だ」なんて言われました。
だけど、赤塚不二夫先生が「リズムがいい」と言ってくださって。
コマのリズム、読みやすさ、何が起きてどうなったか、わかりやすさって部分ですね。
大胆奇抜な構図も良いけど、わかりにくくちゃしょうがない。
かといって、わかりやす過ぎるのもつまらない。
そのちょっと上みたいなところが一番理想的で、わかりやす過ぎるところをちょっとだけズラす、その塩梅は丁寧にやっているつもりです。
漫画の中で起きていることは、読者に全部知らせたい。伝えたい。
読み手にストレスを与えたくない。
漫画慣れしていない読者も置いて行きたくない。
新人へのアドバイスとしては、何か自分だけの突き抜け方があるはず、ということ。
例えば僕は料理漫画。
パスタ・うどん・そうめん、全部違う描き方をします。
パスタは意外に直線が強いとか、うどんはある程度クニャっと曲がって、箸で持つと重量感があるけど柔らかいとか。そこの表現にはこだわる。
実際にそんな風にはならなくても、肉だってお箸で持っただけで肉汁ボタボタ出させちゃう。
何か自分だけの突き抜けた表現ができないと、面白くならない。

言いたいことは、漫画で伝えたい

今、初めての原画展が開催中で、銀座を皮切りに、各地を巡回しています。
あちこちに熱心なファンがいてくれるのは励みになります。
今の自分ができることはこれ位だけど、その中で精一杯はやりたい。
でも、例えばファンとお喋りしても、言いたいことはなかなか伝えにくい。
「おれはこういうのがイイと思う」「おれはこれがカッコイイ奴だと思う」「イイ話でしょ」って、やっぱり漫画で伝えたい。
そういうものを描いていけたら…突き抜けた感じが欲しい。
小さな奇跡みたいな物語を作れたらいいな、と思います。

取材を終えて・・・

取材後の雑談でおっしゃっていた事と、原画展開催にあたってのインタビューが印象に残っている。
「完璧なものなんてできる訳がない。とにかく、その時の精一杯というところまでやり切る。不満があったら宿題として、次に解消する。そういう風に考えないと、今、自分がやれることもやれなくなってしまう」
「終わったことは振り返らず出直したいという気持ちが強まり、思いきって販売することにしました」
原画を販売することには「処分が難しいものを家族に残していく訳にはいかない」「ならば、大切にしてくれるであろうファンにお渡ししたい」という、いわゆる「終活」の意味もあるらしい。
なにか、禅にも通じるような、独特のストイシズムと哲学が感じられる。
奇術にもご興味があり、造詣が深いとのこと。
これから描かれるであろう「小さな奇跡みたいな物語」が非常に楽しみである。


プロフィール

寺沢大介(てらさわ・だいすけ)

1986年『イシュク』でデビュー。同年『ミスター味っ子』を連載開始。アニメ化され、大ヒット。2年にわたり放送される。
1988年『ミスター味っ子』第12回講談社漫画賞を受賞。
1996年『将太の寿司』第20回講談社漫画賞を受賞。同年春にフジテレビ系でドラマ化。
他にも『WARASHI』『喰いタン』などが映像化されている。
『ミスター味っ子』『将太の寿司』は、欧州・アジアでも評価され、世界的な人気に。
現在『ミスター味っ子幕末編』を週刊朝日増刊「真田太平記」で連載中。
2016年9月、銀座を皮切りに「〜ミスター味っ子&将太の寿司〜寺沢大介画業30+1周年記念原画展」をスタート。各地を巡回し、原画販売や実食イベントなどを行っている。6月18日には広島県の「ゆめタウン廿日市」でサイン会を開催。
また、9月7日には「サンライズフェスティバル2017 翔雲」として、TOHOシネマズ新宿にて行われる『ミスター味っ子』レイトショーで登壇予定。

◆近著『ミスター味っ子 幕末編』(朝日新聞出版社)
http://amzn.to/2rCHdB8


◆「〜ミスター味っ子&将太の寿司〜寺沢大介画業30+1周年記念原画展」
・公式サイト
http://ajikko-shota30.grinship.com/
・公式FaceBook
https://www.facebook.com/ajikkoshota30/
・公式Twitter
https://twitter.com/ajikko_shota30

◆「サンライズフェスティバル2017 翔雲」公式サイト
http://www.sunrise-inc.co.jp/sunfes/

◆じぶん書店はじめました。
https://www.jibunshoten.com/bookstore/E6XNjzHD

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