ゲームやアニメーション、エンタメの物語の世界でキャラクターが生きる世界、その背景を創り上げているトップクリエイター、上国料勇さん。世界的ヒットとなったファイナルファンタジーXを始め、ゲームやアニメなどの現場で独自の世界を創造しています。意外にもキャリアはスロースターター。株式会社スクウェア(現株式会社スクウェア・エニックス)入社時は中堅と言っていい年齢で新人としてスタートしました。上国料さんのこれまでの半生と、作品作りについての思いや経験を伺いました。
あきらめない
◆見どころ
―絵を描くのが好きだった幼少期
―30歳と遅咲きのクリエイターだった
―ファイナルファンタジーチームへ突然の配属
物心ついた頃から絵を描いていた
──どのような幼少期を過ごされていたのでしょうか。
生まれたのは新宿ですが、5歳くらいで母の実家がある鹿児島県に引っ越しました。ですから新宿の記憶はおぼろげで、自分にとって故郷は鹿児島県です。生まれは東京、出身は鹿児島と言っていいですね。
新宿にいた頃は外で遊べる場所が少なかったので、室内で過ごす時間が長く、ずっと部屋で落書きをしている子どもでした。
──珍しいお名前ですが、本名なのでしょうか。
鹿児島の方の名字です。本名は上國料という旧字ですが、書くには大変じゃないですか。ですから普段は上国料で通しています。旧字だと全国でもあまり数はいないんじゃないかな。
──鹿児島からまた東京に戻られたのは、進学がきっかけですか。
はい。大学は東京学芸大学です。大学では美術を専攻して絵ばかり描いていました。いわゆるバブルと呼ばれた時代で、あまり就職とかはぜず自由に生きていこうという風潮があったような気がします。フリーターという言葉も出てきたころで。
今の真面目な学生さんには信じられないだろうけれど、大学=モラトリアムの日々の体験は面白い記憶として残っています。
──学芸大というと教員を目指すような真面目な方が多い印象がありますが。
教員免許を取ることも可能だったのですが、私自身はもうその頃には作家になりたいという思いがありました。真面目な人とそうでない人の二極化していて。私の周りにはそうでない方が多かった。今はみんな頑張ってて遠回りしながらでも自分の居場所を作っている人が多いです。
インタビューの一つ一つに丁寧に答えてくださいました
華やかさに憧れてサブカルチャーのクリエイターへ
──ゲームやイラストに仕事として興味を持ったきっかけはなんですか。
絵描きとは似て非なる才能が必要なので、絵が描ければ誰でもできる仕事ではありません。いわゆるトレンドとか大衆文化に近いものなのでそういうアンテナが必要です。メディアに取り上げられることも多く、そういうのがちょっといいなぁと思ったんです。
それまではほそぼそと絵描きをやっていたんですが、自分もそういうものを作ってみたいという夢が芽生えたんです。
──そこで作品を作ってスクウェアに入られたわけですね。当時は今より若い業界でしたが、30歳手前での挑戦は珍しかったのでは。
30歳くらいまでという募集要項が多かったのでとても焦っていました。当時は20代中盤くらいが平均年齢だったような気がします。僕が入った時アートチームの中でほぼ最年長でした。周りを見てみんなこんなに若いんだって驚きました。中にはまだ高校に通っている人とかもいましたし。
──その環境で未経験から採用されるのが凄いですね。
スクウェアには学歴経験問わずの通年採用がありました。作ったものの良し悪しによる判断なので、経験や学歴はあまり関係なかったです。数百人くらいの応募者の中から採用されるのは1人2人ということもあったようです。
──なかなかハードな倍率ですね。採用される決め手などはあるんでしょうか。
実力もありますがタイミングはあると思います。たまたま「今こういう人が欲しい」というタイミングにマッチした人がくれば、実力が不足していても伸びしろに期待して採用に至ることもあります。逆もまた然りで、とても上手くても「今はそんなに仕事を回せないから」というケースもあります。そういう人を抱えておいてもいいのですが、結果として「仕事がないのになぜ自分はここにいるんだろう」と自分を追い詰めてしまいます。それは長い目で見て本人にとっていい状況ではありません。そうなってしまうくらいなら、今欲しいって言ってくれる会社で働いた方がいいと思います。
2021年7月16日公開「竜とそばかすの姫」より
きっかけは油絵。入社後、いきなりFFXのチームに配属された
──スクウェアに入社後、すぐにファイナルファンタジーXのチームに配属されたときのことを伺えますか。
いきなりトップチームのFFチームに配属されて驚きました。私の作品に興味を持ってもらえたのだと思います。応募作品もゲームなのでやはりキャラクターかなぁと予想してたくさん描いたんですが、それまで描いてきた油絵もついでに何点か写真に取って一緒に送りました。
入ってから自分を採ってくれたアートディレクターの方から「キャラクターも良かったけれど、油絵がとても良くて独特の世界観を持っているんじゃないか」と期待があったと教えてもらいました。
──ファイナルファンタジーシリーズはXからかなり変わりましたよね。
ちょうどPS2が登場した時期で一気にハード性能が上がりました。制作費や関わる人数も増えて大掛かりになっていきました。ゲームは映画と違ってゼロから細部まで全部クリエイターが作っていかなければならないので、淡々と何年もかけて作ります。気がついたらものすごい額の制作費になっていることもあります。大きい会社はそのコストを踏まえて勝負できるのが強いですね。
2021年7月16日公開「竜とそばかすの姫」より
背景を作るクリエイターは凄いと思ってもらえる文化を作りたかった
──X以降、ファイナルファンタジーシリーズでガジェットや背景を担当されるようになりましたが、キャラクターを描きたいと思ったことはないんでしょうか。
ゲーム業界に入ると、キャラクターを描きたいという人は多いです。それなら自分はそれ以外を極めようと思いました。キャラクターと背景が創り出す世界観、どちらもゲームには重要な要素で大切な仕事です。背景担当のクリエイターもその評価がもっと高まるといいなと思っていました。
トータルで見たときにプレイヤーは感動してくれる。自分は世界観を創りたい。いいものを創り続けて、この仕事に光を当てたいという気持ちがありました。
──影響を受けた方はいらっしゃるんですか?
あまりそういうのはなくて、わりと誰でも通る道を通っていると思います。男の子だったらガンダムやスターウォーズのようなメジャーな作品を見て育つ人も多いですよね。ただかっこいいと思っても、当時はネットもないので、それを誰がデザインしたかは知る機会が少なかった。だからテレビや映画、作品の中に映ったものをただただ見るしかない時代でした。誰がデザインしたかではなく、自分が見てきたものすべてがごちゃまぜになって、今の自分を形成しています。
2021年7月16日公開「竜とそばかすの姫」より
(2DAYに続く)
インタビュー・ライター:久世薫 校正:NORIKO 映像:グランツ株式会社
◆上国料 勇(かみこくりょう いさむ)氏 プロフィール:
イラストレーター、アートディレクター、画家、コンセプトデザイナー等の様々な肩書を持つ日本屈指のクリエイター。
ファイナルファンタジーXのコンセプトアートを担当し、後のシリーズではアートディレクションを担当している。
現在はスクウェア・エニックス社から独立し、フリーで多くの作品に参加。
2021年公開の映画「竜とそばかすの姫」(細田守監督作品)では、コンセプトアーティストとして独特な世界を作り上げている。
また京都大徳寺の襖絵プロジェクトや秋田の新政酒造 NO.6 のボトルラベルデザインなど活躍の場は多岐にわたる。
Twitter:@kamikoku2009