出版社であるが取次を通さず全国5000店と取引実現をしているスゴい人!

リーダーになる基盤を作ることができた編集者時代

1500店の取引先を失うピンチがチャンスに!

5人だけの会社なのに社員3人が辞めてしまう!

本日登場するスゴい人は、1985年の創業時から出版社「ディスカヴァー・トゥエンティワン」の社長を務めてきた人物。
この32年間、最大の危機から売上を2倍にした経験や、もう会社をやめて(廃業して)しまおうと思ったことや、最初で最後の涙を流してしまった出来事など、挫折も喜びも味わった方である。
出版不況と言われるなか、今でもヒット作を連発している。
無名だった勝間和代さんを発掘したことでも知られているが、取次を通さない直接取引で全国5000店舗と取引しているという、出版業界では考えられないマーケットも開拓!
出版業界全体の売上が落ち込んでいるなか、これからのビジョンについてもお話しいただいた。

さあ…
株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン/Discover 21
取締役社長 干場 弓子様の登場です!

リーダーになる基盤を作ることができた編集者時代

男女雇用均等法なんて無い時代に男女平等に働ける業界は、公務員と出版社ぐらいでした。
父が公務員だったこともあって、お堅い官僚の世界より、自由で華やかな雑誌の世界に憧れて、出版社に就職しました。
そこで、望み通り婦人誌のファッション担当に配属されたのですが、当時は今と違って、編集者がモデルの手配からスタイリング、ライターまで、すべての仕事をしていたんです。
企画を任せてもらえるようになってからは、スタッフを引き連れてロケに行くわけですが、そこで思いもよらない事態に遭遇することはしょっちゅうあるわけで、そのとき、いかに素早く対応するか?一つ一つ自分で決めることが求められました。
結婚し、夫のアメリカ転勤と共に退社するのですが、思ったよりも帰国が早く半年後には別の出版社でまた婦人誌を手がけることに。
この会社は規模が小さかったため、自分の意見も通りやすく、責任と権限の範囲も広く非常にやり甲斐がありました。
多くの仕事の基本や仕事人としてのメンタリティは、このとき、試行錯誤のなかでたたき込まれたように思います。

ヒット商品の裏側

仕事もある程度できるようになり次のステージを考えていた時期に、当社のオーナーである伊藤に出逢いました。
今はコーチングの会社を経営している彼から、出版社も持ちたいからやってくれないかと声を掛けられたのです。
雑誌と本の出版とでは全く違う、ということに気づいたのは始めてからのこと。
著者もいなければ、読者もいない、装丁のデザイナーも印刷所も、すぐに仕事を引き受けてくれるわけじゃない。
もちろん最大の難所、流通については、本を書店に卸す取次会社はそう簡単に口座を開いてくれるわけではありません。
そういえば、最初の数年間に出していたCDサイズの本についても、偶然見つけたグラフィックデザイナーがCDジャケットのデザイナーだったからできたんです(笑)。
その後もちょっと事業に詰まったときは、前提や前例を疑い、ゼロベースで考える習慣が自然につきましたね。
日本人の作家で完全な新人発掘としては、『夢をかなえる人の手帳術』の藤沢優月さんがいます。
時間管理の本の企画の持ち込みでした。
他の持ち込み原稿のなかで出色の出来だったので本にしたところ、売上も良く、翌年に著者の手帳術を活かせる手帳を作りました。
これが出版社の出す最初の手帳として、メディアから取材を受けるほどの話題を呼びました。
初年度10万部、翌年には20万部刷ったのですが、ミスプリントがあり回収に。
これは結構、たいへんでした。
その後は競合他社も個性的な著者を立てた手帳を販売し、出版社が手帳を売る文化が定着したのですが、弊社はそのノウハウと書店での実績を活かし、今では毎年20種類くらいの手帳を出しています。

1500店の取引先を失うピンチがチャンスに!

当時、直接取引では限界と言われた400店を優に超えた1500店と取引できていたのですが、その先はなかなか拡がりませんでした。
何か手法はないかと思っていると、大阪にある柳原書店さんという中堅取次が口座を貸してくれるというのです。
柳原書店さんの口座を通じて大手取次の日販さんやトーハンさんとの口座をもつ書店さんと取引することで、取引店は3000店に増えました。
ところがです!
1999年12月27日、突然に柳原書店さんが倒産したのです。
年末年始商材として1億円分の商品を柳原書店さん経由で納品しきった矢先のことでした。
1億円分の商品と同時に1500店の取引先を失うピンチです。
こうなったら、とにかく柳原書店さん経由の書店さんに、直接取引になっていただくしかありません。
暮れも押し迫るなか全社員で「ディスカヴァーの本は来月から直接取引にしていただかないと取引できなくなります」と順に電話をかけました。
すると8割もの書店さんが直接取引に応じてくれました。
それは、何にせよ商品力があったからこそだと思います。
直接取引によってわずか2か月で売上は2倍になりました!
会社を設立した時、21世紀には年商10億円にするという目標があったのですが、この危機があったおかげで達成できたと言えますね(笑)

5人だけの会社なのに社員3人が辞めてしまう

危機と言えば、月商500万円になって年商1億円も見えてきた頃、社員は私を入れて5人でした。
仕事が軌道に乗っていたまさにその時でした。
5人のうち3人が辞めると言い出したのです。
残ったのは、編集職ながら、営業から雑務までなんでもやる貢献率がトップの藤田(現取締役)。
私は小さい会社なりに、社員の生活やキャリアに責任をもっているつもりでいたのに、なんだ、そんな必要なかったんだ、と思ったら、もうやめちゃおうかなと、なんかばかばかしくなってしまって。
藤田に聞いたんです。「あなたはどうする?」って。
すると、彼が言いました。
「僕は続けたい。干場さんが続ける限り、僕はやります」
人は、自分のためだけでは頑張れないけれど、誰かのためだったら頑張れる、というのを実感した瞬間でした。
すぐにオーナーの伊藤に頭を下げに行くと、彼は私を責めるでもなく、「よかったんだよ、きっと次のステップに行けってことなんだよ」と言って、自分の会社から4人を出向させてくれました。
そして彼の言葉通り、そこからが今のディスカヴァーのスタートでした。
現在の直取引店5000店のほとんどは、そのときの出向者の一人である、小田(現取締役)が新規開拓したものです。
思わず涙が出ました。
仕事で涙を見せたのはそれが最初で最後でしょうね。

出版社としての信頼を守り続ける

現在、出版業界の売り上げは落ち続けています。
21世紀に入ったとき、次のような標語をつくりました。
「紙にこだわらない。日本語にこだわらない。文字にこだわらない」
そして、2010年からデジタル事業部を、2012年には、Discover NY ,Inc.を立ち上げました。コンテンツの360度展開と、グローバル展開です。
まだ形にはなっていませんが、新しいインターネットのコンテンツを作りたいと、試行錯誤してきています。
もうすぐ実現することで言えば、今月、世界初の日中コラボ小説が出ます!
中国人と日本人が相棒になるストーリーで、1巻目は日本を舞台に、2巻目は中国という形で4作ほど作る予定。
狙いは、中国での映画化です。
いまの出版の業態にこだわるつもりは全然ありませんが、どんな形になっても、ディスカヴァーの人と本(コンテンツ)は信頼できる、ハートがある、新しいと言っていただける情報・コンテンツを作り、発信し続け、新しい価値観を世に問い続けていきたいと思っています。

取材を終えて

エネルギッシュで終始素敵な笑顔で取材に応じて頂いた。
存続の危機が訪れるたびに、常に前に進む推進力としてしまう干場社長!
この推進力はきっと生まれ持った干場社長のエネルギーなのだと思った。
独自にマーケットを開拓し、これまでにないスタイルの本をたくさん手がけられてきた干場社長だからこそ、出版業界全体は下りのエスカレーターかも知れないが、誰もが考えもしなかった上りのエレベーターを開拓してしまう気がしてならない。

プロフィール

干場 弓子(ほしば・ゆみこ)
株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン/Discover 21 取締役社長

愛知県立旭丘高校、お茶の水女子大学教育学部出身。
1977年、世界文化社入社。「家庭画報」編集部等を経て1985年、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン設立。以来、取締役社長として、経営全般に携わり、書店との直取引で日本一の出版社に育て上げた。2011年には『超訳 ニーチェの言葉』が同社初の100万部を突破。
編集部全般も統括し、CDサイズのシリーズ、ミリオネーゼシリーズ、強育シリーズ、携書シリーズ、Dis coverサイエンスシリーズなどを立ち上げてきた。自らも編集者として、勝間和代さんの各書籍、小宮一慶さんのビジネスマンシリーズ、流行語大賞にノミネートされた『「婚活」時代』を手がけるなど、常に新しい視点でヒットを創りだしている。
最近は、日本書籍協会初の女性理事、国際委員会副委員長として日本の出版の世界へのアピールにも尽力している。

◆株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン/Discover 21 http://www.d21.co.jp/

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