『FINAL FANTASY』シリーズの音楽を生み出した作曲家のスゴい人!

好奇心の塊、でも習うのはイヤ

5年間の暗黒時代

やりたいことをやっていく

長きにわたり愛されているゲーム『FINAL FANTASY(FF)』シリーズ。
これまでに全87タイトル、累計1億3,000万本以上が販売された(2017年2月時点)。
1987年発表の第1作から、その多くの楽曲を手がけた作曲家が、本日登場するスゴい人。
その作品はゲーム音楽という枠を超え、世界中で評価されている。
家庭用ゲームの黎明期から、どのような経緯でゲーム音楽に携わることになったのかお聞きした。

さあ…
作曲家
株式会社DOG EAR RECORDS/有限会社SMILEPLEASE
代表 植松伸夫様の登場です!

好奇心の塊、でも習うのはイヤ

人から習うのが苦手で、習い事は長続きした試しがない。
勉強より運動が得意でした。
小4の頃、日本は体操王国で、体操選手が大活躍していました。
彼らのように後方宙返りをキメたいと、自分で練習を始めたんです。
マットを敷いて、毎日ちょっとずつ高く積み上げて、できるようになった。
「習わなくても、なんとかなる!」とこの時思ってしまった。
今でも楽器の演奏も作曲の仕方も習っていないし、好きにやっているだけなんですけど。
習っていたら、途中で放棄していたと思います。
音楽には特に興味も無かったんですが、音楽好きの姉に、ウィーン少年合唱団の高知公演に連れて行かれて。
合唱を聴いたら、どーんと涙が溢れて…初めての体験でしたね。
それから家にあるレコードを片っ端から聴いたり、音楽に興味を持ち始めました。
そのうち、ひたすら洋楽ばかりかけているような『亀渕昭信のオールナイトニッポン』とか、深夜ラジオを聴き始めて。
小6で祖父からガットギターを貰って、歌本を見ながら弾いてみたら、意外に簡単だった。
“コード”を知り、「おれでもできる」と音楽との距離がすごく縮まった気がしました。

ピアノが弾けちゃった

ある日「もしかして、ピアノにもコードって存在するんじゃないか」と思って、ギターコードを弾く要領でピアノを弾いてみたんです。
知らなかっただけで、当然存在するんですけど。
そうしたら、弾けちゃった。
「おれにも『Let It Be』が弾ける!」と興奮したのを覚えています。
中2の頃には、友達とバンドを組んで文化祭で演奏しました。
客は8人くらいでしたけど(笑)
とにかく演奏するのが好きだったんですが、練習しなきゃ弾けない。
だったら、自分で作っちゃえば簡単に演奏できるだろうと、作曲を始めました。
譜面は書けないので、オープンリールでレコーディングして。
高校生の時にはプロになりたいって言っていましたね。
誰にも相手にされなかったけど(笑)
神奈川大学に入学して、バンドで色々なライブハウスに出るようになって…演奏以外にも色々とやらなきゃいけないのが面倒で。
作曲したり、裏方に行こうかなぁ、と思いました。
シンセサイザーと、マルチトラックレコーダーが普及してきたんです。
この二つがあれば、譜面が読めなくても、一人で作曲録音ができる。
家は比較的厳しかったんですが、大学卒業の年に親父が仕事でベルギーに転勤したんです。
音楽家を目指すなんて許されなかったと思うので、これもラッキーでした。

5年間の暗黒時代

大学を卒業して、急に音楽で食べていける訳がない。
27歳でスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入るまで、5年くらいプー太郎ですよね。
この暗黒時代は、やばかった。
音大を出ている訳でもなく、コネもなく、可能性は、ほぼ無いに等しかった。
ただ、自分でも不思議なくらい辞めようとは思わなかった。
昼間はバイトをして、音楽活動は続けていました。
岩崎工さんの音楽スクールに通ったんですが、岩崎さんから「植松くん、大体わかっているから、教えてみない?」と誘われて、講師になったり。
そんな事をして、何とか食べていました。
スクウェア入社の前に、一つだけ「やったぞ!」という事がありまして。
「音楽家になりたいのに、こんなことやっていても仕方ない」と、一大決心をしてバイトを全部辞めたんです。
音楽関係の仕事を探して、求人情報で「CM音楽作成」というのを見つけて、デモテープを送り続けた。
45日間、毎日送り続けていたら、向こうが根負けしたようで(笑)
地方ラジオの曲などを作ったりしました。

『日吉梁山泊』からスクウェアへ

その頃住んでいた神奈川の日吉のアパートには、芸術家を目指している仲間が集まっていました。
僕は『日吉梁山泊』と呼んでいます。
毎晩酒を持ち寄っては、偉そうに芸術論を戦わせたりしていました(笑)
ある日スクウェア社員の女の子が来るようになって、「バイトしない?」と声をかけられました。
それでゲーム音楽制作の仕事をしたのが、スクウェアとの関わりの最初です。
坂口博信さん(元スクウェア副社長、現ミストウォーカーCEO)ともその頃に知り合いました。
当時スクウェアも日吉にあったんですが、バッタリ道端で坂口さんと会って。
「今度ちゃんとした会社にするんだけど、来ない?」って言われて、それで入社したんです。
僕の周りには不思議な能力を持った人が多いんですが、坂口さんと会う1週間前に「植松くんは来週、運命変わるよ」と言われていて。
「植松くんは将来、絶対に世界的な作曲家になる」と言われたこともあります。
20代の若者達で仲間内的に始めた会社で、一生懸命ゲーム作ってもあんまり売れなくて。
なかなか稼げず、いよいよ解散しようかという時に、坂口さんが最後に「RPG」に挑戦したいと、『FINAL FANTASY』が作られた。
これで息を吹き返したのですが、コケたらもともと作りたかった映画音楽に行こうなんて考えていました(笑)

やりたいことをやっていく

最近苦しいと思うのが、歳をとって体力が落ちてくると、気力も落ちるなぁ、ということ。
産みの苦しみは全然無いですよ。
作曲家はみんなそうじゃないかな。
365日24時間、何らかの曲が頭で鳴っている。
あるシーンを見て、どんな曲調も浮かばないって人は作曲家にならないんですね。
難解な曲を作るのも好きですが、メインテーマにはわかり易さを心がけています。
自分の作ったものが理解されなかったら、悲しいじゃないですか。
「おれはこう思うんだよね」「ああ、わかる、それ」なんて、コミュニケーションみたいな感じですかね。
共感というか、音楽で言う「ハーモニー」かもしれませんね。
今、忙しくて忙しくて、もう疲れ切っている感じなんです(笑)
昔だったら定年は65歳ですよね。
あと2年たったら、仕事は1年に1本ペースにしようかな、と。
忙しい生活にはケリをつけて、やりたいことをやっていこうと思います。
映画のメインテーマも作ってみたい。
それから、友人に絵を描いてもらって、絵本を作っているんです。
スクリーンに映して、朗読して、僕が生演奏して、という公演をデモ的にやっています。
それを全国のライブハウスに営業したい。
大学生の時みたいに、頭を下げて。
僕は今、居心地が悪いんです。
『FF』というタイトルが大きすぎて、すごく高くなりすぎちゃった。
タイトルの看板を下ろして、どこまでできるのか勝負してみたい。
マット運動をコツコツやってきた男ですからね(笑)

取材を終えて

30年前「素人集団」の作ったゲームは、そのゲーム性、世界観、グラフィック、そして音楽の全てが評価され、
新作が生まれ続け、世界中に熱狂的なファンを作り出して行った。
「『FF』は大きすぎて、僕にとって高くになり過ぎた作品なんです。下から見上げている感じ」
『FFXI』が発売された2年後の2004年、フリーランスとなった。
『FF』シリーズは勿論、現在でも第一線でゲーム音楽の作曲も続けている。
一方、世界中を飛び回って数々のコンサートも成功させている。
「『FF』の看板を下ろして、イチからまた何か始めたいって思っています。日本中のライブハウスで、
絵本と朗読と演奏を組み合わせたイベントをやりたいなぁ」
ワクワクしながら語るその姿は、まるで子どもが秘密基地を計画しているかのようだった。
これからが楽しみだ。

プロフィール

植松 伸夫(うえまつ・のぶお)
作曲家

1959年高知県高知市生まれ。
神奈川大学卒業後、CM音楽制作などを経て、1986年、スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。
同社の代表作『ファイナルファンタジー』シリーズを始め、多数作品の音楽を手掛ける。
1999年フェイ・ウォンに楽曲提供をした『ファイナルファンタジー VIII』のテーマ曲『Eyes On Me』がオリコン洋楽チャート19週連続1位を獲得。
同年、第14回日本ゴールドディスク大賞において、ゲーム音楽としては初の快挙となる「ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)」を受賞。
2004年同社を退社後、有限会社SMILE PLEASE設立。
海外での評価も高く、2001年5月「TIME」誌にて「現代の音楽における革新者のひとり」として紹介され、2007年7月「Newsweek」誌にて「世界が尊敬する日本人100人」の一人に選出される。
近年では日本国内をはじめ、世界各国でオーケストラコンサートや自身のバンド「EARTHBOUND PAPAS」によるライブイベントを開催し好評を博す。

◆植松伸夫公式ファンクラブ「中位のおっさん」
http://www.uematsufc.com/

◆植松伸夫公式ブログ
https://lineblog.me/uematsunobuo/

◆植松伸夫公式Facebook
https://www.facebook.com/UematsuNobuo/

◆植松伸夫公式Twitter
https://twitter.com/uematsunobuo

◆株式会社DOG EAR RECORDS
http://www.dogearrecords.com/

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