神の手を持つ男!般若心経の世界観を形にする、現代アートのトップランナー DAY2

本日登場するのは、昨日に引き続き、山口県在住、神の手を持つアーティスト、中村敦臣様。国内外の個展や展示会で高い評価を受けていながら、その気取らない人柄がとても素敵です。その不思議な魅力はどこから来るのか。般若心経を深く理解し、社会を思考的に見る姿勢。まさに天賦の才能を与えられたアーティストです。

切り絵アーティスト 中村 敦臣様 DAY2                    【YouTube】   

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海外で気が付いたアートの意義

海外へは今までNYとフランスで出展いたしました。海外で僕の作品をご覧になった方のリアクションは日本のそれとは全然違うもので、多くの気づきがありました。日本ではスゴい!海外ではアメージング!という言葉をよくいただくのですが、海外ではアメージングの向こう側があるんです。

日本での展示会ではよく、「これは何を描いているのか。」「この絵を通して何を伝えたいのか」といった質問が多いです。そこでは僕の考えや、切り絵を通して僕自身が伝えたいことを説明差し上げるのですが、海外は反対に「このアートを通して伝えたいことはこういう事でしょう?」とか、「私はあなたのこのアートを見てこのように感じるんだけど、どうかな」といった風にそれぞれのオリジナルな考え方をまず持たれていて、その考えをもって僕のアイデアと比較検証するといった傾向があります。答えは人それぞれあってよい。というのがまず根底にあって、そこからアートを見ている。これはおもしろいなーと思いました。例えば僕の作品で4部制の龍があるのですが、日本人は龍の頭、顔のパートが欲しいとおっしゃるんです。4つは多いな。となるとね。ところが海外はこれも逆で、顔はいらないという。胴体や足のパートだけ欲しいと。理由を聞いてみると、家族が集まるリビングに飾るからだと。もしも龍の顔をそこに飾ったら、素敵だけれど「龍だね。」って、それ以上の会話は生まれない。でも体の部分を飾ったなら、そこに会話が生まれるんだと。「これは龍かな?」ってね。なるほどなー、これがアメージングの向こう側にあるアートの役割なんだと思いました。インテリアとしての役割と、人とのコミュニケーションツールとしての役割。どちらを重視してその作品を買うのか。どちらも間違いではないんです。ただ、この相違は面白いなと思いました。

 

切り絵アートの可能性を探

最近の新しい試みとしては、地元山口県の工業製品メーカーの三笠産業株式会社さんと一緒に開発した光る折り紙があります。三笠産業さんは印刷機のトナーを主に生産されているメーカーさんです。トナーインクなどに使われる微粉砕技術をお持ちでして、蛍光塗料でのインクトナーを開発されました。ですので、その技術と切り絵のアートを組み合わせてスヌーズレンアートルームを制作しました。(2019年)「スヌーズレン」というのは、障がい者と健常者が共生することを目指した社会的な考え方です。その考え方を基に実現したリラクゼーション効果の高い空間を「スヌーズレンルーム」と言います。この空間は知的障害をお持ちの方や認知症の方にとって感覚刺激的にリラクゼーション効果が高いんですね。来館者の皆様には3D眼鏡をかけていただいて、立体的な切り絵アートと蛍光塗料の世界をご覧いただきました。来館者の滞在時間がとても長い展示会でした。それはやはりスヌーズレンアートという環境が人をリラックスさせる効果があることと無関係ではないと思っています。

アートとは何かと考えるとき、商業的に成功することもアートの可能性の一つではあります。ただし商業的ではないところにこそアートが果たせる本来的な役割があると思っていて、スヌーズレンアートルームというのはまさにアートが社会の共生の場を創造することができる一例です。ここから派生して商業的、または社会インフラ的にそれぞれの展開を見せていけたなら願ってもないことです。  

 

アートとしての切り絵を極める

切り絵という文化は1000年以上も日本には存在しています。和紙などの素材を使用して、神事や祭事にも用いられてきました。どちらかというと伝統工芸ですよね。僕はそこに現代的な要素を取り入れたアートとしての挑戦をしています。ですから切り絵という技法を使っていくうえで素材を紙だけに絞っていません。紙よりももっと表現に必然性があると思えば、アクリルや建材なども使用します。ここには建設業として様々な工業素材に20年近く触れてきたという経験も大いに生かされていると思います。固さや柔らかさ、冷たさや温かみ。本来の素材の使い方を知っているからこそ、その素材に新しい世界を持たせることがとても新鮮でわくわくするのかもしれません。和紙素材の切り絵の背景にアクリル板を合わせたりもします。今までに無かった、まったく新しい世界、宇宙(スペース)を創作しているつもりです。切り絵の柄を施した光る折り紙も制作しております。子どもたちの身近にもっと切り絵の世界があれば良いなと考えています。

切り絵アートというのは出口に限界がないアート。非常に繊細でもろく、壊れやすいのですが、だからこそ、その誕生の瞬間に放つ存在感にはパワーがあります。そして緻密なだけなら時間をかければ誰でもできるし、機械を使えばもっとすごいものができるわけですから、切り絵アートというのは切ることがアートになる時代はもう終わったと思っています。カメラが登場した時、多くの写実画家が職を失ったように、切り絵という技法自体が今3Dプリンターや高度な技術に簡単に凌駕される時代において、我々アーティストがやるべきは、「作品を通して何を問うのか」  

 

イノベーションの進歩によって、「作業」としての緻密さ、精密さというのは機械があれば十分に実現できます。人間のアナログな作業なんてそもそも太刀打ちができないです。でも絶対に機械にはできない「命」のような「人の息吹」のようなものを乗せることができるのはやはり人間にしかできない「作業」だと思います。一人のアーティストとして切り絵という技法で何を表現し、何を社会に発信するのか。そこだけがもはやアーティストとして存在する大きな意義でもあります。多くの文化芸術は時代とともに変化し、成長を遂げます。般若心経だって初音ミクとのコラボでポップになったり、ロックになったりする時代。僕も必要とあれば機械の力を借ります。それによってその緻密な「作業」から解放されて、その先の「表現」というところに情熱を注いだ方が伝えたいものが伝わる場合があります。ですから僕の作品は、ある意味で「作業」の集大成としての切り絵というより、「切り絵」という観念を用いたアートなんです。

インタビュー:NORIKO 翻訳:Tim Wendland

 

 

中村敦臣 切り絵アーティスト

公式サイト:https://www.atsuomi.jp/

Facebook: https://www.facebook.com/atsuomikirie

Instagram: https://www.instagram.com/atsuomi._paper_cut_artist/

光る折り紙販売店:浜松町 宇宙の店  https://spacegoods.net/

◆プロフィール

1974年山口県生まれ。 切絵アートクリエーター

2011年 国際グループ展(ニューヨーク・セーラムギャラリー)

2012年 国際グループ展(ニューヨーク・セーラムギャラリー

2014年 第15回ジャパンエキスポ招待作家(フランス パリ)

2015年 マイフェアドラゴン展(東京 南麻布 シャラ・パール)

2016年 もしもしにっぽんFESTIVAL 2016(東京 渋谷)

2017年 ONISHI PROJECT/Winter Group Show(アメリカ ニューヨーク)

2017年 TOKYO INTERNATIONAL ART FAIR 2017(東京 渋谷ヒカリエ)

2017年 「神の手ニッポン展」第3期 神の手アーティストに選任

2018年 敦臣「切絵の現在2018」展 山口井筒屋美術ギャラリー(山口)

2019年 さくら咲くや @ 百段階段 (東京 雅叙園 内 国指定文化財百段階団)

2019年 超絶技巧!の否定と肯定〜中村敦臣 切絵の現在〜(岐阜県 美濃和紙の里会館)

 

【取材を終えて】

コロナの影響もあり、取材は山口と東京とを結ぶリモートでさせていただきました。美人で評判の奥様からのサポートをいただきながら、工房からのインタビュー。時折、楽しい話題で脱線してしまう我々を奥様が誘導してくれました(笑)敦臣さんご自身、世界で一番自分の才能を理解し、尊敬している方がそばにいるこの幸せをかみしめていらっしゃるようなご様子でした。コロナでなかなか個展や美術展の先行きが不透明な昨今ですが、この最中においてもなお、さらに新しい表現方法を研究する良い機会だとご微笑むご夫婦に真のアートが持つ強さを垣間見る思いでした

 

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