古来から日本に伝わる神道を現代カルチャーに結びつけるスゴい人 DAY2

日本のサブカル発信地として知られている秋葉原。その氏神様が祀られている神社が神田明神です。正式名称を神田神社というこの神社は、伊勢神宮を本宗とする神社本庁の別表神社であり、奈良時代に創建されたのが始まりと言われています。伝統的な歴史を持つ一方で、現代ではアニメ作品とのコラボ、インターネット参拝など、新しい文化も積極的なことでも有名。そういった取り組みにも前向きな宮司、清水祥彦さんは、自分は人間として未熟なのだと微笑みます。人の暮らしと神道について模索を続ける清水さんの背景について伺いました。

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大学での学び、そして良き師との出会い

──良き師に恵まれたとのことですが。

國學院大学の岡田莊司名誉教授が講師の時代から40年以上長くご指導をいただき、今も神田神社で神道講座を開催していただいております。

岡田先生はお父上が鶴岡八幡宮の宮司でいらっしゃいましたが、ご本人はずっと大学の教員として人生を歩まれてきました。

 

──最初に奉職されたのは鶴岡八幡宮ですよね。教授のご縁もあったのでしょうか?

私が奉職した時には、既に先生のお父上は引退されていました。

 

──大学を卒業して、最初に奉職するのは、新入社員になる感じでしょうか。

そうですね。大学を卒業して、神職の資格は持っていますから、神職として掃除を基本とする下積みのお勤めが始まります。当時は、まず朝の5時に円覚寺の暁天坐禅会に参加するため4時に起床して修行をしていました。

鶴岡八幡宮は月に4~5回ほど宿直勤務がありました。宿直は、神様のお食事やお宮のお掃除などお世話、お護りするのが仕事の内容です。

 

──他の地域の神社でも宿直があるのでしょうか。

基本的には、どこの神社でも神職が、毎朝神様のお食事を宿直した神職が用意を致します。みなさんの家の仏壇や神棚にも御神酒やお米やお塩を毎日上げるのと一緒です。神社でも毎朝、神様にお食事を差し上げています。

宮中にも神社がありまして、同じように毎朝お食事を差し上げて、国家の安寧を祈っています。

神職は、仲執り持ちとして、神様と人間との間に立って、毎日吉人々の幸せをお祈りしています。それが私達神職の一番大きな仕事です。

神社は会社とは違い、利益を求める組織ではありません。皆様からお預かりした浄財は、神社や鎮守の森を維持したり、お祭りを開催したりと、次の時代へ伝統をつないでいくための活動に使わせていただいています。

伊勢神宮では今でも毎朝、神に奉る神饌は特別におこした火で調理することになっており、その火は神職が古代さながらに火鑚具を用いておこしています。

天皇陛下が国民の幸せを毎日神々に祈っているのと同じように、全国の神社では、神職がみなさんの幸せをお祈りしているのが永年続いてきたこの国の基本的な宗教的伝統です。

穏やかな口調で取材は進みました

神社にいることで生まれた文化との出会い

──鶴岡八幡宮には何年いらっしゃったんですか。

5年です。最初の2年間は白い袴の見習いですが、3年目からは水色の袴になります。当時は鎌倉の古跡や自然を巡り、古い歴史や文化を学ぶことができました。

その後に神田神社に転職(奉職)いたしました。

 

──古都の神社と都会の神社では流れる時間も違うのでは?

そうですね。全然違います。神田はビルに囲まれている都会のど真ん中で、秋葉原の一角ですから、いわゆるメイドさんが写真を撮りにいらっしゃったりします。古都鎌倉とは風景が全く異なりますね。

鶴岡八幡宮は観光地だったので、修学旅行生や参拝者に毎日のように神社にまつわる歴史のお話をしておりました。

 

──司馬遼太郎さんともお知り合いということですが。

たまたま神田明神に司馬先生が取材にいらしてくださったんです。神社にいるといろんな方々が訪ねてきます。荒俣宏先生もいらっしゃいました。

出会いは偶然ですが、それぞれ良きご縁を頂戴して、作品の中で私をご紹介をしていただきました。

 

──サブカルチャーとのタイアップが注目されていますが、宮司さんとしてはどのようにお考えですか?

神田明神は下町の庶民の心の護り神さまなので、地元のカルチャーとの親しみががあるべき場所だと思っています。

新しいカルチャーとしては、毎年AKBの女の子たちがお参りに来てくれますし、『こちら亀有公園前派出所』をはじめいろいろなアニメやマンガに神田明神はよく登場してきます。さまざまな形で、新しい文化と古い文化が融合するのが神田明神の特徴だと感じます。

古い伝統を大切にしながら新しい文化を受け入れて、次の時代につなぐことができれば幸いと考えております。

サブカルチャーの聖地として御守りも販売している

昔から日本人に身近な神道を伝えたい

──今、コロナの関係でいろいろ大変だと思いますが、何かお考えですか?

神社も参拝者が激減して大変困難な状況を迎えました。しかし幸いなことになんとか運営ができており、大変ありがたいと思っております。その反面、崇敬者の皆様に寄り添いながら、神田神社として何ができるか、また責任を果たさねばならないと考えております。

 

──インバウンドで訪れる方も多いと伺っていますが、今は海外の方はなかなか来ていただくのは難しいですよね。

ほとんどいらっしゃっていないのが実情です。ですが、外国の方に日本の文化を知っていただくには神社はもっともふさわしい場所だと思います。やがてまた海外からのお客様もいらっしゃると思っています。日本の心と、歴史と文化を守るうえにおいて、今は大変厳しい冬の時代ですけれど、なんとか継承して守っていきたいと思っております。

 

──これからについての展望をお聞かせいただけますか。

今、ICTを使った新しい神社の運営を考えています。密集、三密の初詣を、どうやって安心安全にしていただくか。分散参拝やインターネットを活用した取り組みをしています。

いわゆるバーチャル参拝とは異なり、初穂料のネット決済やオンライン授与所やモバイルオーダーで当日の現金のやりとりを回避できるしくみも用意しています。

 

──時代が変わっていく中で、神社仏閣も民衆の風俗に合わせて共に変化していくんですね。

神様にお賽銭を投げ入れるのも、貨幣経済が浸透した近世になってから行われるようになった比較的新しい文化なんです

古代から中世までは、米中心の経済でしたから。神様に捧げるものは『初穂料』とあります。今はその中にお米が入っているのではなく、お金が入っています。神社は時代と共に変わっていくものであり、同時に変わらざる伝統と文化を伝えていく場でありたいと考えています。

 

(了)

 

インタビュー:守安法子  ライター:久世薫 撮影:株式会社グランツ

 

清水祥彦(しみずよしひこ) プロフィール:

サブカルチャーとのコラボレーションも積極的にして秋葉原という街の文化を踏まえた、現代の神社のあり方を模索し、挑戦を重ねている神田神社の宮司。國學院大学を卒業後、鶴岡八幡宮に奉職。5年後に神田神社に転職し、東京都神社庁の理事を経た後、現在は副庁長に就任して現在に至る。

 

神田神社公式サイト:https://www.kandamyoujin.or.jp/

2021年2月 KANDA FESTIVAL 「日本の伝統文化の継承と現代文化との融合」

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