イタリアで活躍する、ヒロシマの想いを伝える現代アーティストのスゴい人!

サクライアートシステム代表 櫻井伸也様  

 今回ご紹介するのは広島県出身の現代アーティスト。作家としてイタリアでデビューし、その活動拠点をトリノに置きながら世界で個展を開催されています。感情のままに繰り出される色彩の海に漂う反戦への願い。ヒロシマを繰り返さないその想いがポップな現代アートの中に組み込まれ、海外での個展も多数開催されています。

 

見どころ

-バスケットボール少年だった

―色彩への興味と恩師との出会い

―イタリアを活動拠点としてから

 

バスケット少年だった

広島県福山市で生まれ育ちました。ヒロシマといっても実は岡山に近い場所なのですが。いわゆる田舎育ちです。兄と2人兄弟で、父は普通のサラリーマンだったのですが、母がファッション関係の仕事をしていたのでその影響もあって、普通の家庭に比べれば、子どもの頃に色彩が多かった生活環境かもしれません。時代もあったのでしょうか、オートクチュールの仕事をしていた母は忙しい時に自宅にカラフルな生地を持ち帰り、仕立てていたりもしたので、その布地のデザインなどには興味を持っていましたね。とはいえ、高校までは普通にバスケットボール部に所属して忙しくしていたので将来的にアーティストになるなんて思ってもいなかったですが。得意な科目も美術とかではなくて、体育でしたから(笑)大学進学するに際して、将来自分が本当に何をしたいのかについて真剣に考えたときに初めて映画やミュージックビデオを撮りたいなと思って、受験しました。だから最初はアーティストというよりは映像の仕事に就きたいと考えていましたね。

 

恩師との運命の出会い

大阪芸術大学の芸術学部芸術計画学科に進学しました。この学科は企画やプロデュースを目指す人が集まる学科でして、基本的には裏方です。裏方ってやっぱり一番大変で、どんな作品も裏方さんの働きがあって成立するわけです。だから幅広く様々な知識を持っていなければならない。ということで一年目はデザインやデッサン、映像編集とか多種多様の授業を受けます。その中の一つに「造形演習」という科目があって、その授業の担当が私の恩師にあたる熊野清貴先生でした。熊野先生は美術館のディレクションや運営をやりつつ、作家として作品も制作し、大学でも教壇に立たれるという多才な方です。その当時は准教授でいらしたかな。熊野先生はもともとデザインの方なんですけど、造形を教えていらして当時は木工の漆や染織などの工芸演習の授業もされていたんです。熊野先生と出会って、ものづくりの魅力を知って、裏方としてのみならず自分で作品を生み出すこととかプロデュースをすることなどに興味が出たんですね。大学時代の4年間ずっと熊野先生についてまわって、お昼もよく食べさせてもらいました(笑)

憧れのイタリアでのデビュー

当時から、世界の美術史の中でイタリアが占めている役割というのは非常に大きいと私は思っていましたから、大学卒業後はイタリアでさらに研鑽を積みたいと考えました。過去から現代にいたるまでにおいて形成されてきたアートビジネスというか、システムみたいなものがどう働いているのかを学びたいなと思ったんです。それでイタリアの現代美術で有名な都市トリノのアカデミア芸術学院へ入学しました。イタリアの美術高校って5年生でね、だから日本で4年制の大学を卒業していてもそれほど年齢差が無かったのは面白かったですね。アカデミアでは舞台芸術を専攻しました。イタリアの国立のアカデミアは面白くて、絵画と彫刻、それから舞台芸術と修復のこの4つのコースしかないんですよ。修復っていうのがまさにヨーロッパ美術の歴史を感じるというかね。大学は3年間。1年目が舞台。オペラとかの舞台美術を学びます。2年目が映画の美術セット。3年目がテレビの美術制作です。総合的にいろんなことを勉強しました。その後は日本でいう大学院のような専門コースに進みました。そんな中で2006年にイタリアで個展デビューしたんです。

 

イタリアでアーティストとしての自分を見つめなおす段階で、私のルーツでもある広島が世界に知られていることに思いが至りました。いうまでもなく、被爆体験地としてのヒロシマです。ヨーロッパの人々の中には、まだ広島は原爆の焼け野原で大変だという過去のイメージはあるし、広島出身の私には「ヒロシマ」を伝える使命があるのではと思うようになりました。そこから様々なインスピレーションを得て作品にヒロシマの歴史が持つ、人間の狂気と悲しみを描けたらと思うようになりました。黒い雨など、ヒロシマへのイメージというのはやはり暗いものです。今はもう戦後75年が過ぎて日本人には、そんなイメージなんて広島にはまったくない。広島の市街地だって全く現代的な雰囲気ですしね。今の時代のヒロシマのイメージを明るく伝えたいと思いました。だからハートのモチーフを使ったりして、ラブ&ピースのポジティブなイメージでヒロシマを伝えるようにしています。

 コロナ禍のイタリアでの創作活動

私の絵はまず、いわゆる下地の生地を選ぶところから始まります。必要に応じて生地を染色して、下地を作る。長い布を絞り染めにしたりすることもあります。そこにイメージを落とし込むための基本工程ですね。これが全体のイメージを構成する大切な部分です。私のスタイルは生地に絵筆で直接絵を描いていく方法ではないものもあるので美術作品なんですが工芸的なイメージの作品もあるかもしれません。作品のイメージを投影しやすい、アパレル企業様の生地にデザインを使っていただいたりもしています。

今は「食」テーマにして創作をしています。奇しくもコロナの影響で「食」にまつわるビジネスが大変厳しい環境になっておりますが、今この時こそ食べることをイメージした作品に行きついたのは何か運命的な意味合いがあるのかと考えています。イタリアでも日本食ブームがすごくて、日本文化への興味がある方も増えています。良くも悪くも彼らの日本に対するイメージみたいなものからは私の作品は遠くて(笑)、イタリアの方には非常に興味深くとらえてもらえた点もあると思います。例えばイタリアで一番有名な日本人画家というのは紛れもなく北斎なので、日本の絵と言えば富士山や芸者のイメージ、最近だと漫画やアニメ。僕の作品は当然全く関係ないですから。

 最近は、アートに限らずですが、もっと日本の若い人達がどんどん活躍の場を広げて、日本のみならず世界の場で存在感を広げてくれたらいいなと僕も思う歳になりました。

今回のコロナの時は、2月終わり頃にロンバルディア州からコロナが出たということで世界的に報道されたのですが、その時はまだ5月の初めにイタリアのギャラリーで個展は開催する方向で進んでいたんですよ。だからアトリエに籠って黙々と創作していたんです。そしたら急にロックダウンだってなって。画材とかは幸い個展向けての制作の為に用意していたので問題なかったんですけど、その後ロックダウンが延長されてくるとさすがに画材はもちろんのこと食糧も尽きてきます。まず何より数カ月にわたって個展が開催できないので収入がないわけですよ。さすがに不安になりましたね。これはどうなっちゃうのかなと。インターネットでダウンロードした外出許可証をもって 近くのスーパーに買い出しに行く日々が続きました。もともとイタリアの人は個人の自由度が高くて、個が尊重される文化なのですが、今回は違いましたね。最初の頃は大丈夫だよーってやはり言ってましたけれど、徐々にカフェやレストランが閉店していって、次第に状況は変わり、人々の考えも変わりましたね。大勢のイタリア人が一世にマスクをし始めたのを見て、これはもうただ事ではないのだと感じました。幸い私の周りでは感染した人はいなかったのですが、高齢者施設なんかでのクラスターがやはり感染者も死者数も多かった理由だと思います。

今後も予定している個展が世界中であるのですがどうなるかは神のみぞ知るところです。今はまだコロナで大変な時期ではありますが小規模ながら開催を予定しております。ぜひ足を運んでご覧いただければと思います。

 

Profileプロフィール◆

櫻井伸也

1981 広島県生まれ

2004 大阪芸術大学芸術計画学科卒業

2004 トリノ・アルベルティーナ美術アカデミー舞台芸術科入学

現在 日本、イタリア、フランス、ドイツ、スイス、スペイン、オーストリア、韓国、香港

台湾等、世界各国で個展・グループ展を開催。ファッションやワインラベル、インテリア等のデザイン、コラボレーション、プロデュ―スを手がける

イタリア、トリノ在住。

公式サイト http://www.art-shinyasakurai.com と

◆個展情報

Shinya Sakurai Solo Exhibition ”SYMBOL”
A session: 25 September - 10 October 2020
Open time  12:00-19:00
Close: Sunday,  4.October
Place : Contemporary HEIS Galleryaddress:  Koura Daiichi Bldg. 1F 1-1-6 Nihombashi Kayabacho Chuou-ku Tokyo
Telephone number: 03-3527-3860
Email: heis-g@orange.ocn.ne.jp
Web: www.heis-g.com
櫻井伸也個展 ”SYMBOL”

会 期: 2020年9月25日(金)~10月10日(土) 12:00~19:00
休廊日: 10月4日(日)
場所: Contemporary HEIS Gallery
住所: 〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町1丁目1−6 小浦第一ビル1
アクセス: 地下鉄東西線・日比谷線「茅場町」7番出口より徒歩 2分
電話番号: 03-3527-3860
Email: heis-g@orange.ocn.ne.jp
Web: www.heis-g.com

 

【取材を終えて】

コロナ禍の中、衛生面で厳重に管理された横浜での個展にお邪魔しました。年に12度開催する日本での個展は作品に触れることができる、貴重な機会です。イタリアに留学した経緯や、今回のトリノで迎えたコロナロックダウン下での制作の様子など貴重なお話をたくさん伺うことができました。

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