度重なるプレッシャーに崩れる精神
時を超えたサービス、それがおもてなし
夢を実現するために大切なこと
本日登場するスゴい人は、最高峰ミシュラン三ツ星のレストランでメートル・ドテルを務めたスゴい人。
彼の職業である“メートル・ドテル”は日本では聞きなれない言葉だが、本場フランスではシェフと肩を並べる高度な技能を求められるレストンランサービス専門職である。
彼は国内のサービスコンクールで優勝。
その後、世界一を決めるサービスコンクールでも見事に優勝し、華々しい成果を上げた。
しかし、そんな彼にもプレッシャーに押しつぶされそうになったことがあった。
果たしてその重圧とは?
さあ…
メートル・ドテル
宮崎 辰様の登場です!
喜んでもらうことが好きだった幼少期
小学校3、4年生の頃、家庭科の授業で料理を作った時に、すごく楽しくて、自分が作った料理が素直にすごく美味く感じました。
それを両親に振舞い「美味しい」と言ってくれたとき、料理というものは「人を幸せにするのだ」というのを肌で感じました。
それがきっかけで将来はコックさんになろうと心に強く思ったのでした。
もともと人を喜ばせることが好きだったのでしょう。
記念日には、祖父や両親に肩たたき券や皿洗い券をプレゼントしていました。
喜んでもらえる姿を見たくて何かしらのアクションをおこした事は、今の仕事に通じていたのではないかと思います。
「メートル・ドテル」という仕事との出会い
将来コックさんになるという夢を持ち、19歳の時にフランスへ渡り、調理師学校で料理を学びました。
フランスのレストランではサービスも重要な仕事という事でしたので、料理を学ぶ傍らサービスを学ぶ機会もありました。
そこでサービスの楽しさを初めて知りました。
サービス職“メートル・ドテル”とは、作り手側(=シェフ)と食べ手側(=お客様)をつなぐ出し手(=サービスマン)のことです。
お客様のご要望を汲み取り、それを調理するシェフに伝えて、シェフからお料理を我々がお預かりし、そしてお客様へお届けする。
常にお客様が快適なお食事をできるよう、空間を演出するのがメートル・ドテルという仕事なのです。
私は料理が好きでしたので、当然日本に帰ったら料理人になろうと思っていました。
しかし帰国して働き出したお店でとても素敵なメートル・ドテルに出会いました。最初の師匠です。
料理人希望でしたがその方が「サービスの時代がこれから来るから一緒にやろう」と言ってくださったのです。
そんな憧れの存在が私の人生を変えました。
その師匠とは今でもお付き合いをさせて頂いておりますが、その時の話をしたら「俺そんなこと言ったっけ?」と。
私は、あなたのその一言でこっちの世界に来たのに(笑)
一流のサービスを競うコンクール
フランス料理のサービスコンクールでは様々な技術審査があります。
プロとしての姿勢や語学力も審査に入ります。
例えばテーブルセッティングの審査は当日テーマが発表されます。
テーマにあったテーブルクロスを選び、お花を生け、そのテーブルにふさわしい装飾を施したテーブルセッティングをします。
出来上がったら、そのお客様に合うコース料理を創造し、説明しながら提供します。
緻密で調和のとれたテーブルで清潔感があること、そしてなによりセンスが問われる課題です。
その他には「デクパージュ」という前菜、お魚、お肉、デザートをお客様の前で切り分ける作業の課題などもあります。
相当な練習量と技術力が必要です。
骨付き仔羊などのお肉やお魚などは、切り分けてお客様に提供し、そのテクニックを披露します。
より美しく、よりお客様のお好みに合わせたカッティングや量をお伺いしながら、お客様のお好みにあったお料理を作る。
料理人としての知識も必要です。
あとはワインのテイスティング。ソムリエとしての能力も問われます。
赤、白、スピリッツそれぞれの色、香り、味わいの表現、ぶどうの品種、年号(ビンテージ)、産地を絞り、ワインに合わせる料理を提案します。
大変だったのは全てフランス語で行わなければならないことでした。
コンクールでは、そのような様々な種目をサービスマンとして必要なスキル、知識を使い、レストランの中でするべき仕事を最高レベルで提供することを競います。
度重なるプレッシャーに崩れる精神
人生の中で一番大変だったことは三ツ星レストランに移籍した時です。
その頃はコンクールの決勝が控えていた時期でして、優勝しなければならないというプレッシャーがあり、店のスタイルややり方を知らないまま、好きにやって良いと言われ戸惑いながらスタートした頃でした。
今までそれなりのお店で働いてきたという自負を持って移籍して来ましたが、そこをはるかに超えるレベルだったのでした。
まずお店の規模が違う。
通常なら多くても15人前後のチームなのですが、そこは倍以上でした。
完全分業制になってシステム化されていて、こんなに機能的に動いているレストランが日本にあったのかと驚きました。
そして料理の質の高さ、完成度、お客様の求めるレベルの高さ、今の自分のレベルとの差を目の当たりにし、精神的に落ち込み、精神内科に通うことになりました。
通院し続けてもいっこうに良くならなくて、朝は落ち込み、涙が止まらなくて仕事に行きたくないと思った日も少なくはありませんでした。
もう限界だという状況になり、2週間で辞めようと思いましたが、控えていたコンクールは何年もかけて準備してきた大切なものでしたから、逃げ出すのはいつでもできる!そう思いながら「明日は今日よりはきっと大丈夫」と毎日自分に言い聞かせていました。
自分自身が我慢するしかなかったのでした。
そして、ある日、前のお店からのお客様が来てくださったことがありました。
すると気持ちがスッと楽になったのです。
馴染みのお客様が来てくださったから、辛い中でも仕事ができていたと思います。
ですので、お客様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
コンクールまでの4ヶ月間をなんとか乗り切りました。
そしてコンクールで優勝してから少しずつプレッシャーから解放されて、気が楽になっていったのでした。
それから数か月後、世界コンクールの開催が決まり、日本代表として出場することが決まりました。
背負うものの大きさをすごく感じましたし、周りからのプレッシャーもありましたが、国内大会で優勝した時と同じように楽しんでやろうと思いました。
2年間くらいの準備期間がありましたので、大会までの日々はひたすら練習に明け暮れました。
時を超えたサービス、それがおもてなし
私は、現在という空間だけではなく、お客様の未来を見据え、お客様が大切な人に伝えたくなるようなサービスを提供することを常に心掛けています。
時が経ってもサービスの余韻が続き、良かったことがいつまでも記憶に残り「またあの人に会いたい、サービスを受けたい」と思って頂き、そのお客様のお子様やお孫さんにも、そのサービスを味合わせたいと思っていただけるような、まさに時間を超えた、次世代へ語り継がれるサービスこそがおもてなしだと思います。
夢を実現するために大切なこと
夢を実現するためには、自分の仕事に誇りを持つこと、そして自分の仕事を好きになること。
あとは、基礎を極めることが大事だと思います。
当たり前のことを当たり前のようにするということが目標への近道。
一歩ずつ、1ミリでもいいから毎日上っていくことが目標につながるので、その目標にさらに上乗せして少しずつ上っていけば、いつか夢に到達すると思います。
取材を終えて・・・
一般的にはあまり知られていない“メートル・ドテル”
お客様や周りのもの(スタッフ)にも気を遣い、場の空気を読み、瞬時に判断する力、豊富な知識、言語や教養など、様々な要素が必要となるこの仕事は、常に緊張との闘いの中、サービスマンとして尽くす。
こんな大変なお仕事をされている宮崎さんは、繊細で、冷静沈着、人間としての深みを持っている事を、私は肌で感じることができました。
誰もができる事ではないと、良い意味で恐ろしかったです。
宮崎さんのサービスをお客という立場で、ぜひ一度受けてみたいと心から思いました。
プロフィール
宮崎辰(みやざき・しん)
メートル・ドテル
Fantagista21代表 株式会社シーレイズ所属プロフェッショナル講師
1976年、東京都国分寺市生まれ。
高校卒業後、辻調理師専門学校に入学。
1996年、同校のフランス校へ進学。
ミシュラン1つ星レストラン等での研修を重ね、1997年に帰国。
東京国分寺「シェ・ジョルジュ・マルソー」、芝「クレッセント」、六本木「グランドハイアット東京」、銀座「オストラル」、青山「ピエール・ガニェール・ア・東京」を経て、2010年に恵比寿「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」にメートル・ドテルとして入社。
同年、第14回メートル・ド・セルヴィス杯で優勝。「日本一のメートル・ドテル」になる。
2012年11月、「クープ・ジョルジュ・バティスト」サーヴィス世界コンクール東京大会で優勝。「世界一のメートル・ドテル」になる。
2017年 「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」退社
メートルドセルヴィスの会 育成分科会 幹事 就任
現在、サービス普及活動や企業研修 講演、セミナー、メートルドテル業発展の為にFantagista21を設立 代表に就任
◆Fantagista21オフィシャルホームページ
https://www.fantagista21.com/
著書
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