独立後、持病に悩み続ける日々
「円陣」が生まれる瞬間
移りゆく感性の中から生み出す
本日登場するスゴい人は、2014年FIFAワールドカップサッカー日本代表新ユニフォームのコンセプト「円陣」を書いた美しき書道家。
音楽や美術とのコラボレーションで、世界に新しい書の姿を発信している。
書の無限の可能性にチャレンジし続け「遊ぶ」ことを大切に自由なアレンジをライブパフォーマンスで世界中のファンを魅了する。
さあ…
書道家
白石雪妃様の登場です!
書道に熱中した幼少期、とにかく書くのが好きだった
子どもの頃は、ピアノと習字を習っていました。
今ではライブ活動をしますからそんな事はないのかもしれませんが、子どもの頃は本番に弱いという意識がありました。
それも関係しているかもしれませんが、ピアノより習字に没頭しました。
小学生の頃「大きくなったら習字の先生になりたい」と母に言った記憶があります。
得意だったので、褒められることもうれしかったですし、とにかく書くのが好きでした。
学校のコンテストに出せば、当然のように賞を取っていました。
そんな私が、様々な賞に入賞することでより優れた人たちの作品に出会うことになります。習字から書道の道に入っていったのは、その頃からです。
独立後、持病に悩み続ける日々
実は、働きながら書道を継続するのは並大抵なことではなかったのです。
書道は、想像以上にお金がかかります。
湯水のように流れていく費用を捻出しながら、書を書いた9年間は本当に苦労しました。
この頃、もっと自由な書を生み出したいという欲求がありました。
既存の書の世界から離れて自分を表現してみたいという、強い気持ちが生まれたのです。
一念発起して会社を辞め、書きたいように書こうと決心するに至りました。
ここから、予想しない苦労が始まるのですが、直ぐに持病に悩まされることになりました。
皮膚の病気でしたが、これが辛かった。
命に係わるような病気ではないのですが、常に痒みや痛みに苦しめられます。
この時期、ありとあらゆる治療法を模索しましたが、なかなか改善しませんでした。
ようやく自分にあった治療法に出会い、持病が改善した時には「ああ、これでようやく存分に書ける」と解放された気持ちになりました。
体調がよくなってから最初に個展を開催できた時は本当に嬉しかったです。
様々な縁を大切に、総合芸術としての書道を模索
これは偶然の出会いなのですが、カフェのオーナーがたまたま個展を見に来てくれて、ご自身の喫茶に寄ってみて、とお誘い頂いたのです。
そのお店には、カフェスペースと教室が出来るようなお部屋があるのです。
今でもこのお店で、展示をしたり、ライブをしたり、教室をさせていただいています。
とても、居心地の良い空間なんですよ。
このお店で、様々なご縁をいただき「即興で作る」という点では、音楽も書道も同じと気づくことになりました。
やり直しの利かない芸術という共通点を見出し、ミュージシャンの方と「即興による考察」という対談をさせていただいたことをきっかけに、様々な芸術とコラボレーションしてみようという気持ちになりました。
音楽と書道のセッションを初めて経験した際には、それぞれやっているのに互いに吸い付いてくる感覚がありました。
自然な歩み寄りを感じる瞬間がとても面白いのです。
更に、お客様も同じ高揚感を感じていただき、それを共有できるのがライブの楽しさです。
「円陣」が生まれる瞬間
ライブ書道で、「これだ」という感覚をつかめたものの、なかなか周りの理解を得られなかったこともありました。
ところが、段々にパフォーマンスとしての書道が認められるようになり、書道の見せ方も多様性を持たせることが出来るようになってきました。
今では、比較的保守的だった書道の先輩や仲間たちも応援してくれるようになっています。
私の代表作の様になっているFIFAワールドカップの「円陣」があります。
このお仕事は、ひょんなことからスケジュールもない中で急にお引き受けすることになった作品です。
三日三晩寝ずに仕上げました。
予算も時間もない中お引き受けしましたが、元々ロゴのために書いたものではなく、書の線を使いながら絵を描き、エキシビション用の作品を総合的に仕上げました。
血のにじむ思いで作り上げた作品が出来上がった時に「これは、手に入れた」という達成感があったのを覚えています。
移りゆく感性の中から生み出す
最近では「心地よい」「しっくりくるな」という感覚を大切に、自分のペースで仕事を楽しめるようになっています。
都会的で無機質な空間が好きだった時期から、今は少しの田舎暮らしを心地よく感じるようになっています。
移り行く自分の感性を大切に、これからは「持続できる物」を生み出すコラボレーションを追求したいと思っています。
そのために、二人展という個展を開催しています。
書の平面の世界をもっともっと拡げてみたい。
アクセサリーのデザイナーさんや、写真家さんなど、ジャンルの異なる芸術家たちと、1年間くらいかけて一対一の探り合いから生まれることを大切にしていきたい。
これは、続けていきたい取り組みの一つです。
自分の書を日本で培いながら、海外の皆さんにも知って頂きたいと思います。
取材を終えて・・・
色々な書道家さんがいる中、白石さんはご自身にしか表現できない領域で常にチャレンジされている。
学生時代は吹奏楽部に入り、音楽が好きだった少女は、今でもホルンを吹いている。
書も音楽にも精通している彼女だからこそ生まれたライブパフォーマンス。
決して派手な見栄えの為にやっているわけでは無い。
さらに、書の線を用いて絵を描かれている事は一見奇抜に思えるかも知れない。
しかし、22歳で師範資格を取得して独自の線と空間を追求し、確固たる実力を元に自分らしい型破りな領域を追求しているのである。
日本で吸収したものを今後もコンスタントに海外で発信していきたいという白石さん。
これからも書と新しいモノとコトの融合をされてゆくのでしょう。
プロフィール
白石雪妃(しらいし・せつひ)
幼少より書に興味を持つ。22歳で師範取得。書の線と空間の美しさを追求する。
伝統的な書の世界を伝えつつ独特のスタイルを持ち、音楽芸術や美術とのコラボレーションなど、
書道を総合芸術として昇華させる世界観は高く評価されている。
海外でも積極的に活動し、生演奏との融合から生まれるライブパフォーマンスは世界中で多くのファンを魅了している。
http://www.setsuhi.jp/