ストール状の画期的なカメラストラップ“カメラスリング”を開発したスゴい人!

サイズの合わない服を自分で直していた幼少期

カメラは心の内面を映し出す魔法の道具

反対される中でも前に進めた理由

ベビースリング(抱っこ紐)からヒントを得て、ストール状の画期的なカメラストラップを生み出した女性がいる。
一般的なストラップに比べカメラの重さを分散できるため軽く感じ、カメラを包むこともできる。
起業して1年でグッドデザイン賞を獲得した。
大手量販店でも取り扱われ、現在は月200個を受注する人気商品へと上り詰めたカメラスリングの生みの親。
元保育士、3児の母である彼女がカメラ業界で起業に至った経緯とは一体?
その軌跡を追ってみよう。

さあ…
Sakura Sling project
代表 杉山 さくら様の登場です!

サイズの合わない服を自分で直していた幼少期

子どもの頃から物づくりが好きでした。
手編みのマフラーを作ったり、サイズの合わない服は自分で直したり。
人にお願いしたりお金をかけるより、自分でやっちゃえ、自己流でいいやという感覚でした。
高校は見学に行ったときにワクワクするものを感じて、工芸学校アート・クラフト科を選びました。
周りの友達は物づくりが上手く進学する人は少なかった。
私は物づくりで世の中に出るのは違うと感じて進路に悩みました。
「これからは資格の時代だ」という周りの助言もあって、なんとなく自分の出来ること、ピアノが弾けたり、人前で話すことが多かったり、物づくりの勉強をしたことを纏めていくと。
幼い頃から母に幼児教育が向いていると言われたのもあり、保育士ができるなと思って、3年間で資格を取りました。

カメラは心の内面を映し出す魔法の道具

実は5年の間に3人の子どもを出産していて、20代はずっと妊娠していたような感覚です。
保育士として働きながら育児をしていましたが、忙しさに追われるうちに「私、結婚して子どもがいるのになんで綺麗にしなくちゃいけないんだろう?」と疑問を抱くようになりました。
服を選ぶときも、その服が好きとか、着たいというより、この服なら当たり障りがないからと選んでいて「この色が好きだから」といった感覚ではありませんでした。
そんな中、パパ友達で写真家の安達ロベルトさんと出会い、写真を見る機会に恵まれました。
安達さんに「写真の世界は正しい正しくないではなく、素直なありのままで許されるものだ」と教えてもらって興味を抱くようになりました。
そして、教わりながら写真を撮るようになり、次第に自分が何に反応しているのかが分かるようになりました。
それまでは上手く撮れないとき「失敗しちゃったな」と思っていたけど、よくよく考えてみたら「写真を撮ったとき、自分の心が不安定だったんだな」と心の内面が写し出されていた事に気がついたんです。
それから、カメラを通じて内省し始めました。

便利だから自分で使うために作ってみた

カメラスリングは元々、大人の女性向けのカメラストラップがないことへの疑問から生まれました。
革製の紐は冬はコートを傷めるし、夏は薄着で肩にずしっとのしかかって痛いんです。
この負担をどうにか減らせないかと考えて思い浮かんだのが、ベビースリングでした。
布製の紐をストラップ代わりにして、肩にかけるときに広げれば重量の負担を減らせるし、鞄に入れるときはそのまま包むことも出来ます。
周りから「カメラに布は危ない」と言われたけれど、私は私。個人的にやっているだけだし、便利だしと気にしていませんでした。
当時は商品化しようという考えもなく、周りには「便利だから真似していいよ」というくらいの感覚でした。
そんな中、趣味で続けていた写真で個展を開きたくなって。
けれどお金に余裕はないし、すでに保育園とカメラ店でバイトをしていたのでこれ以上仕事を増やすのも現実的じゃない。
そこで思いついたのが、カメラスリングの商品化でした。
勤め始めた代官山 北村写真機店 元店長 須藤達也さんとアートディレクター菊池美範さんが「これはいい!」と褒めてくれたことが自信になって、「いいアイデアは生まれているから、これを商品化するにはどうすればいいのか」とママ友やパパ友に聞いたり、教えてもらったりしながら、YouTubeや知恵袋も活用して商品化に向けて動きました。
世の中にないものは説明しても伝わらないから、商品を作ってみせて工場に打診して。結果的に試作品は沢山作りましたね。
カメラスリング開発に打ち込んでいる私の姿を見て、主人から「好き勝手やるのは35歳までにしてね」と言われました。

グッドデザイン賞獲得で周りが本気に。拡がっていく実感

商品化してすぐは宣伝方法などに悩みましたが、取材を受けたことで少しずつ認知されるようになりました。
グッドデザイン賞を獲得したことでますます周りも本気になりました。
とりわけカメラが好きなコミュニティの人達の口コミ効果が高くて、どんどん拡がっていく実感がありました。
ファッション性も高いことで1つ買った人が他のデザインのものも2つ、3つと買い足してくれることも大きかったです。
商品のパッケージに写真を始めるきっかけとなった記念日を記載したり、台紙にささやかなメッセージを添えたり。気がついた人が何か感じてくれたらいいな、と工夫しました。
それと、装着部分のリングはカメラを傷つけない仕様になっている蔵CURA製の真鍮リングを使用。縫製には静電気を発生させない糸を使用しています。

反対される中でも前に進めた理由

カメラスリングを商品化しようとした頃は、否定的な意見が多かったです。
自分の為に作成した時に「これだ!」ってゾクゾクっと身体の内側に電気が走りました。
それは子どもの名前を思い付いたときと同じゾクゾク感。出会うべきものに出会ったのかもしれないという実感がありました。
だから、周りからどんなに反対されても、自分の中では確固たる自信がありました。
写真を通して、人はそれぞれ違う価値観を持つ生き物だと理解していたのでそれも良かったです。
上手くいかない時は、カメラを持って写真を撮りに行きました。
その時の気分でしか撮れない写真も次の作品に繋がるので無駄がないんです。
人の下で働く事はもうしたくない、自分の好きなカメラ業界に関わる仕事をしていきたいと願う一方で、カメラマンは違うと感じていた私にとって、カメラスリングを世の中に出すことで業界での「居場所」がようやく見つかったと思います。

カメラスリングを通して伝えたい事

今の時代はInstagramに上げるために若い人でもフィルムのカメラを使うなど、写真に対するこだわりを持つ人が増えています。
私も業界を盛り上げることに、カメラスリングを通じて貢献したいです。
カメラを持つことがファッションとして身近になったり、重さの負担を解消することで、カメラから遠ざかっていたお年寄りが再び旅行に持っていけるような環境を作っていきたいと思っています。

取材を終えて・・・

起業家が持っている強さより、人を包み込む優しさが前面に出ている女性でした。
老人ホームや保育園などで勤めていたと聞くと、それはすごく納得出来ました。
カメラストラップとベビースリングを組み合わせる発想は、男性にはなかなか出来ません。
カメラの世界と出会い、自分の心の内側が写し出される事を知り、本当に自分がやりたいことを素直に感じ形に出来た事が大きな一歩だったのでしょう。
周りからの反対も自分の中で素直に向き合って形にしたベースがあるからこそ、ブレずに純粋に進めてこられたのだと感じました。
純粋な気持ちで取り組んでいる人は、応援する人も自然と増えるもの。
これから益々、さくらさんの夢は形になっていくと思います。

プロフィール

杉山さくら(すぎやま・さくら)
Sakura Sling project 代表

3児の母。
かつては保育士の正規職員として勤務していたが、子どもの通う保育園が2か所に分かれてしまったことを機に非正規保育士に転向。
33歳より趣味で写真を始め、保育士の仕事と並行して代官山 北村写真機店でアルバイトを開始。
2014年5月、自身の肩こりの悩みと子育ての経験からベビースリングに着想を得て「カメラスリング」を発案。同年12月より販売開始。
2015年にはグッドデザイン賞を受賞した。
2016年デジタルカメラグランプリ ストラップ部門金賞
2017年おもてなしSelection受賞

◆ホームページ http://sakurasling.com/

TOP写真撮影:安達 ロベルト

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