
子どもから大人まで人気がある『星のカービィ』。世界中にファンがいるカービィを担当している声優・大本眞基子さんは中学生という早い段階から声優になることを志しました。3万人に1人しかいないと言われる、人に安らぎと癒しの効果を与える【1/fの揺らぎ】の声の持ち主でもあります。これまでアニメやゲームで重要な役を演じ、多くの人を魅了してきた大本さんですが、今日に至るまで「声が持つ力」について考え抜き、努力し続け、苦悩してきた日々について伺いました。
元気は思い出すもの
本日の見どころ
▶世界共通語としての「カービィの声」
▶“無機質”と“有機的”を使い分けるプロの表現哲学
▶修験道と「ゼロの状態」から生まれる声と言葉
世界におけるカービィの声が持つ無限の可能性

――大本さんの代表作である『星のカービィ』ですが、カービィの声は『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』(以下『スマブラ』)でデビューとなりましたよね? オーディションの時には緊張されたのでしょうか。どんな風にカービィを演じたのですか?
大本氏:『スマブラ』のオーディションでは、カービィ役とネス役(ゲーム『MOTHER2 ギーグの逆襲』の主人公)別々にオーディションがあって、同時に受けたんですよ。私以外にも青二から何人か一緒に受けましたが、結果的にカービィとネス両方、決まりました。
カービィの声は、私が初めてピンクの丸い形を見た時、直感的に出てきたまんまの声です。
――桜井政博さん(『星のカービィ』『スマブラ』の生みの親)とはオーディションの時が初対面ですか? 桜井さんとのお付き合いも長いですよね。スマブラはどのように収録したのですか?
大本氏:オーディションの時はブース越しで集中していたので、収録時に自己紹介した記憶があります。
桜井さんとは『スマブラX』コンサートや『星のカービィ』のアニメにオーケストラコンサート、『新・光神話 パルテナの鏡』他、色々なお仕事やイベントでご一緒させていただいています。カービィにはコピー能力があるので、スマブラで新しいキャラクターが実装されるたびにボイス収録がありました。何のキャラかは基本教えてもらえませんが、私もプレイしたことのあるゲームや有名な台詞だと「もしかして○○ですか?」「あ。バレた」と(笑)。
コピーボイスはカービィがモノマネしている体なので、元キャラクターの声を聞いた直後に復唱します。聞いた後会話すると声を忘れるので、無言のアイコンタクトでやり取りの収録でした。
そんなこんなでいつのまにか、桜井さんとのお付き合いは長くなりましたね。
実はカービィは、「ゲーム」と「アニメ」では声の出し方がすこし違います。ゲームカービィは、桜井さん的には「プレイヤーのカーソルだと思って感情を込めすぎないように」とのことでしたので、感情控えめに、少し無機質に演じていました。逆にアニメではカービィは有機的に動き、豊かな感情がほとばしります。初期台本には「ぽよ」「ハイ」くらいだったのですが、後半にはト書きにカービィの心の声が書かれるようになり、それを私なりの「カービィ語」に翻訳して表現しました。

『星のカービィ25周年記念オーケストラコンサート』時の桜井政博さんとのツーショット
――カービィは世界的にも人気なキャラクターですが、ファンの反響はどのように感じていますか?
大本氏:カービィは言葉を喋らないのでアニメはカービィだけ別収録で、海外では世界共通ボイスで私の声が使用されました。面白いことにカービィ語の意味はそのまま、海外の方にも伝わっているようです。改めて、感情は世界共通言語で、声には「喜び」「怒り」「悲しみ」といった感情や想いを載せられるのだと感じました。海外の方からSNSでメッセージをいただく事も増えましたが、言葉を喋らないキャラクターだからこそ、言語の壁を越えて感情が伝わっているのだと思います。
そういえばアニメの最終回、助けに行くシーンで思わず「フーム!」と名前を叫んでしまいまして、桜井さんはその演技を評価して下さったのですが、「カービィが名前を呼んでしまうと特定の意味を持たせてしまう」との事で採用されませんでした。
今考えるとよく分かります。この作品が愛され、世界に広がった理由の一つは、カービィは子どもでも大人でもなく、性別も不明の不思議な存在。ニュートラルだからこそ、すべての人が感情移入できる自分の分身(カーソル)になれるのだと思います。
「元気は思い出すもの」今も大切にする修験道
――今までの声優人生で一番大変だと思う時期はどこでした?
大本氏:30代の頃一瞬だけ、声優を続けるかどうか悩んだ時期があります。理由は覚えていないのですが、人間関係でなにか辛いことがあったのと、今後の表現の在り方として声優以外の道を考えたのかな?その時、奈良にある天河大弁天社に、最後の挨拶に行こうと思い立ちました。
ちょうどその頃酷い水害があって、天河も大きな被害を受けていました。その時は禊殿の鳥居まで土砂で埋もれていて、見えているのは鳥居の上側1メートルくらい。「え、どうしよう……?」と思ったのですが、神様への最後のご挨拶なのに鳥居をくぐらないなんて失礼すぎる、と両手をついて地面をハイハイして鳥居をくぐっていると、たまたま見ていた柿坂宮司に声をかけられました。
車で送ってもらいつつ職業を聞かれ、お話していると「こんなにも低い鳥居をくぐったのは貴方だけです。だから貴方はええ声が出るんでしょうな。真心でなあ」と言われました。
このタイミングでそんなことを言われる?と、まるで天河辨財天に「辞めるのはやめなさい」と言われてるようで、考えてみたらそもそも辞めなくてもよいのでは?と、なんだか力が沸いてきました。
宮司さんの言葉はもちろんきっかけになったのですが、宮司さんが私に直接力を私に与えたという事ではなく、すべては繋がっていて、役目はその場にいる人に降りてくる。今の自分に出来る精一杯。それ以上は人間にはできないのだから、それを果たしているだけでいいんだと。
外でなく内側に深く潜るとそこに扉があり、本来の流れに繋がるのだと思いました。
そして「元気」とか「安心感」というのは、人からもらうものではなく、自分の中にある根源の「源のエネルギー」を思い出すことなんだと気付きました。それは、山の霊気の中で自分と向き合う修験道(仏教や神道、道教などが習合して成立した超自然的な力を得ることを目的とした修行)との出逢いにも繋がっていきました。

天河弁財天社の節分神事に出羽三山神社の修験道装束で参加
――なぜ修験道を始めたのですか?
大本氏:先ほどの天河へ行ったのは、誕生日の朝、突然「天河」という言葉が頭に浮かび、どんな所かわからないけど、行ってみよう!と出発したからです。着くと1日に3本しかバスがなくその日のうちに帰れないことがわかりました。
宿泊施設も満室で、極寒の中どうやって夜を過ごそうかと不安になっていると、バスで話した女性が「今夜は天河弁財天社で神事があるから参加したら? あと、多分ここには泊まれるよ」と、とある場所を紹介してくれました。旅館なのだと思ってそこに行くと、30畳くらいの大部屋に通され、後から後からいろんな人が入ってきて、最後は40人以上になり、呆然としました。
「これはなにごと? 知らない人と一緒にここに寝るの?」と(笑)。
とりあえず皆さんと同じように布団を敷いて寝ていたら、いきなり明け方の4時半ぐらいに起こされ「あなた、白衣も持ってきていないの? 貸してあげるから、ほら! 行くわよ!」「え? どこに?」とポカーンとしているうちに白衣を着せられ、山に入ったのが、私の初めての修験道体験です。たまたま天河に行った流れで、女性も入れる洞川の修験の山の宿坊へ、偶然にも宿泊していたのでした。
――今も修験道の修行を続けていらっしゃいますね。
大本氏:天河訪問をきっかけに修験道について調べました。今は山形の出羽三山という所で神社と寺の修験に毎年参加しています。現代の通信機器はすべて封印し、山中に身を置き滝に打たれると、本能的な感覚が優勢になり、頭の中だけの雑念と、今ここに本当に存在する実相の違いがわかるようになります。自然と交わると心身が調整されて本来の、子どもの頃のような……ただ幸せな感覚が戻ってきます。
それは何の雑念もない、心の中がゼロの状態。
例えば役を演じる時「ここをこうしてやろう」という雑念があると、役が降りてきません。
心にコントロールするものが何もなくニュートラルになると、やってくるものに身を任せられます。その、役に入る時の「ゼロの状態」と、修験で訪れる「無の状態」はとても近く、演じる際、すぐその聖神状態に入れる様になりました。毎年雑念を捨て、新たに生まれ直す修験道は、私にとって欠かせない行事です。
声優を目指す若い世代に伝えたい「言葉が持つ力」

スゴい!題字を執筆中
――現代では声優を目指して苦労している人も多いですが、初心を忘れないカービィを演じている大本さんから声優を目指す若い世代に伝えたいことやアドバイスをお聞きしたいです。
大本氏:どんな役でも受け入れ、理解することが大切なのだと思います。偏見を持ってしまうと演じられません。悪役であっても、主役でなくても。どんな役にも命がある。なぜそんな言動をするのか、内面でしっかり向き合って対話してみると、その役の核にある「願い」や「想い」が理解できて、愛おしくなります。現実の人にも、役にも、偏見を持たず、一度自分の中に受け入れることが大事だなと思います。

國學院大學卒業時の写真
――SNSなどでは「声」の載らない「言葉」による暴力などの問題も起きています。言葉と声を研究されている大本さんはどのように考えていますか?
大本氏:今はSNSで簡単に発信できるので、言葉の威力や影響を考えず投稿して人を傷つける事案がたくさん起きていますね。また、すぐに言いたいことを発信できるSNSの感覚が現実世界にも逆輸入されて、確認せず、段階を踏まずに発言することも増えてきているように感じます。
SNSの言葉には「声」「声音」「声色」がありません。言葉に発信者の感情を載せられないと、どのように相手に伝わるのかは予測できません。「声」は言葉の意味する情報だけでなく、様々な想いのエネルギーを載せることが出来るツールです。例えば「ありがとうございます」という言葉でも、心から発したものと、慇懃無礼に言うのとでは、印象が全く変わります。
日本には昔から「言霊信仰」があります。今國學院大學で日本文化や折口信夫を研究しているのですが、古来日本人は「言葉」には、良くも悪くも現実を引き寄せる霊力があるとして、みだりに口にせず、とても慎重に扱っていたようです。
「想い」があって、「言葉」が生まれる。そして「想い」は抱いた時点で世界に存在している。
言葉にする前の段階で、まずその「想い」から適切かどうか考えることが、これからの時代大切になってくるのではないかと思います。役を演じる時も同じで、言葉にする前の「想い」と向き合う。毎日、何気なく使う自分の言葉や、言葉に載せる感情にも、注意深く向き合い、大切にしてほしいなと思います。
取材&ライター:馬場貴也 ヘアメイク:TAMMY 編集:守安法子 撮影:村上倫弘 取材:アレス
完
大本氏がプロデュースしているブライダル&レストラン施設【シャトー・ドゥ・フェリシオン】。季節アフタヌーンティー他、ヴィーガン・ハラルコースも提供。
倉敷アフタヌーンティー[ 開催期間 ] 2026年1月15日~4月15日
倉敷花「藤」で店内を彩るボタニカルカフェ
大本氏出演:『カービィのエアライダー』(アナウンスボイス)HP
紹介映像
【プロフィール】
大本眞基子: 声優・ナレーター
岡山県倉敷市出身。現在フリー。國學院大學大学院在学中。
小川のせせらぎや波の音など、自然界に存在する癒しの周波数【1/fの揺らぎ】を声に持つ。TBS「ウッチャンナンチャンのホントのトコロ」「情報エクスプレス」に癒しの声として取り上げられる。(音響研究所・鈴木松美氏測定)
2024年3月神職資格取得。朗読、イラスト・創作絵本、カフェプロデュース等、多方面に活動中。
【代表作】
『星のカービィ』カービィ役、『コレクター・ユイ』春日結役、『ゾイド -ZOIDS-』フィーネ役、『クレヨンしんちゃん』ミッチー役、『戦国無双シリーズ』稲姫役、『ダンガンロンパ』舞園さやか役、『ONE PIECE』マキノ役、『ファイアーエムブレム ヒーローズ』リン役 他多数
取材後記
取材する前は、カービィの演じ手である大本さんと会うのに緊張しました。でも取材が始まると、明るい雰囲気と優しい笑顔で話す大本さんと対話して、緊張もほぐれ、有意義な時間を過ごしました。声と言葉を突き詰めて追及していく大本さんだからこそ、世界にも届く力を持っているのだと今回の取材を通して実感しました。11/20から発売された最新作『カービィのエアライダー』ではアナウンスの声を大本さんが担当しており、プレイしていてとても嬉しくなりました。(馬場 貴也)






