昨日に引き続き、今日ご紹介するのは、アニメやアイドルのグッズ制作で有名な株式会社トップスの近藤社長。コロナ禍において過去最高益をたたき出し、コンテンツマニアやアニメファンから髙い支持率を得る企業である。上場企業を退社し、たった一人で起こした会社をいかにして成長・発展させてきたのか。その試練と克服の過程を伺いました。さあ、株式会社トップス 代表取締役社長 近藤尚己様の登場です!
ご縁に感謝 恩に報いる
◆見どころ
ーキャラクタービジネスの奥深さ
ー倒産が頭をよぎった数々のトラブル
ー取引相手やお客様とのご縁に感謝しながら
コナンとキティのモノづくりの相違点
サンリオとムービックではグッズ販売という切り口で見れば同じように見えますが、その内情は全然違います。例えばキティちゃんの下敷き。これは大体購買層が低学年の女児です。主に小学校入学時に買い揃える品の一つです。そもそもそんなに買い換えないし、買い替える頃にはキティちゃんじゃないものにする購入する顧客層ですよね。ところがムービックさんの商品は違います。例えば名探偵コナンの下敷き。これはマニアやコレクターが収集するための商品ですから、一人が何枚も同じキャラクターの商品を購入します。映画公開すれば必ず売れる商品です。その生産ロットは10倍以上です。そんなこんなで初年度の売り上げは3億円くらいある計算でね、一人で始めた会社としては上々の滑り出しと言えます。ところがです。受注したキャラクターのシャーペン・ボールペンの生産が追い付かず、劇場公開日に間に合わないという事態が発生しました。工場担当の方の身内にご不幸があったとかで、まったく連絡が取れなくなったんです。
なので、その会社が発注している下請け工場に直接僕が連絡をとり未完成の商品を回収してきて、劇場公開の前日の夜中までみんなでシャーペンとボールペンを必死で組み立てるっていう事態になりました(苦笑)。この時はサンリオ時代の同僚・後輩やそのご家族みんなが手伝ってくれてね。今となってはよく覚えていないその埼玉の工場から日本全国の映画館に商品を宅配便で発送してね。僕一人では到底できなかったですよ。
苦難の時代を朗らかに語る今がある
取りまくった仕事に起きまくったトラブル
僕はいただいたお仕事は絶対に断りたくない性分なんです。多忙を理由に断るなんでできないし、ご縁あった仕事はすべてお受けしたい。ずっと一人で会社を続けるつもりで創業しましたけれど、なかなかそうも行かないなと初年度で痛感しましたので、2期目から社員を雇用することにしました。サンリオ時代の後輩2人にデザイナー・プランナーとして来てもらったり、お客さんに紹介してもらった方を生産管理として採用しました。それが今の生産のトップでもある、執行役員の高橋ですが、ちゃんとした国立大学を出て日立で働いていた人ですからよくうちに来てくれたものだと感謝しています。こうして会社設立時はなんとか好調な滑り出しだったのですが、僕の仕事を断らない性分が災いして、競合他社が断った仕事を取ったために、何度か厳しい局面を経験してきました。例えば製品仕様がとても難しい、納期が間に合わない、単価が合わない、そんな依頼も断らずに無理をしてでも受けていたので、やはりどこかにひずみが出ます。一番窮地だったのは、コンビニくじで販売したカレー皿の塗装がはがれてしまった2005年です。カレー皿の塗装はまずお皿に水転写して、その上からガラス釉薬をかけて焼成します。熱いカレーを入れると、この水転写の塗装がはがれてしまいました。ということは表面のガラス釉薬の膜自体がはがれているという事ですから、健康被害が心配されます。もちろん即発売中止。この発注企業が某大手企業だったのですが、その責任の所在がどちらにあるのかとなりましてね。その企業の地下の一室で一晩押し問答。翌早朝にようやく解放された時にはお腹がペコペコで。駅前のジョナサンに飛び込んで頼んだフライドポテトとビールの味は忘れられません。結局商品は全量返品となり、その請求書の額は2億数千万円。PL保険(生産物賠償責任保険)が一部下りたのですが、全然足りません。その後2年くらいかけてその企業には約1億円を自力で返済しました。この時期は何度も倒産という文字が脳裏をよぎりました。
専門の技工士を要しつつ、クライアントのオーダーに迅速に対応する
トラブルの度に救っていただいた方への深いご恩
この他にも別で受注した案件でトラブルが平行で起きました。こちらは大手出版社の女性雑誌の付録です。その雑誌の目玉企画で、商品はバッグだったんですけれど、納期が近くになっても全然生産が進んでいない。中国の工場に自ら乗り込んでみたら、実は間に入っていた人とのトラブルが原因で工場側が商品を渡さないと揉めていたんです。江蘇省の工場だったのですが、クライアント企業の社員さんまでも日本から続々と集まってきてね。付録企画の雑誌に付録がついてないって前代未聞ですから(苦笑)。もう作るしかないわけですよ。日本からの送金を広東省にいる友人が江蘇省の銀行に毎日送金してくれます。それを引き出してバッグの生地を買い付けて縫製工場へ持っていき、現金を支払って生産をしてもらう。鞄の取っ手付けの作業をする内職の主婦の方たちにも現金を支払って毎晩徹夜してもらいました。その時は2週間で10キロ近く体重が減りましたね(苦笑)。それから飛行機のファーストクラスなどの広いスペースを取れるだけ取って、積めるだけ積んで日本へハンドキャリーしました。採算なんて考えてられない。残りは全部中国からエア便で輸出しました。雑誌発売日の5月1日に僕は成田に帰国したのですが、成田空港の書店の店頭に、2-3日前まで工場で必死に向き合っていたBAGがちゃんと雑誌の付録として販売されているのを見つけた時は泣きましたね。ほっとしたと同時に、責任を果たせたという思いもありました。仕事の機会をくれた方々のご恩に報いることができたという安堵感とやり遂げた達成感と。まぁ、この件もトラブル解決にかかった費用はしっかり請求されて、それがやはり1億5-6千万円くらいありましたけどね(苦笑)。5年で返済する計画でしたが、会社一丸となって必死に働いて、2年半くらいで返済しました。それを完済したときにその印刷会社の方に言われたのが、こういうトラブルがあった会社は今まで十中八九、倒産してきたのだけれど御社はよく頑張りましたねと言われたのをよく覚えています。モノづくりの現場ってこんなぎりぎりの瞬間というのがつきものではあるのですが、それはやはり積極的に受注をすればするほど起きやすいものです。会社の創業期にはこういった契約をやらねばならない時が確かにありました。今考えるとその試練を乗り越えた経験が社員の自信となり、会社の財産となりました。社員の自信と信頼は確実に会社を強固にしてくれましたね。
フィギュア愛好家の思考と嗜好を熟知している強みがある
人々の「好き」を形にし、人生を豊かにしていく責任
当社は今では社員も50人を超え、実績を備えた企業として果たすべき責任は品質最優先です。社員には積極的に営業をすることを言い続けてはいますけれどやはりその中で出来ること、出来ないことをきちんと見極めて受注するという姿勢に変わりました。けれど今の仕事を守ろうと思った瞬間に仕事というのは不思議なもので劣化するというか縮小し始めます。だから社員には新しい挑戦を常にするように促しています。
会社としてもモノづくりのリスクを分散するためにも少しずつ新業態の事業を拡大しています。代表的なのはグループ会社の株式会社未来工場。乃木坂46をはじめとするアイドルグッズを扱っている会社です。コンビニくじなども弊社で取り扱っております。OEM生産のリスクや限界を自社ブランド生産へ転換することで利益率を上げることができます。また本社の地下には業務用の3Dプリンターを導入しました。開発のスピードUPとコスト削減を見込んでいます。現状に甘んじることなく、これまで以上に当社の製品を楽しみにしている方、コンテンツのファンの方に満足していただける商品を作り続けること。」これが当社の使命だと考えています。
(了)
取材:NORIKO ライター:RYO 撮影:グランツ株式会社
◆近藤尚己氏 プロフィール
山梨県富士吉田市出身。
海運会社を経て、株式会社サンリオ入社。商品企画部での経験を活かして株式会社トップス設立。
マニア垂涎の精緻なフィギュアやコンテンツグッズを企画・生産している業界の先頭を走り続ける。
株式会社トップス 代表取締役社長 公式サイト:http://tops-jp.com/
傘下グループ企業:㈱未来工場・㈱ヴェルテクス・㈱ティーエルティー