カカオ豆から作る本物チョコレートの美味しさを広めるスゴい人!DAY2▶黒木琢磨様

LES CACAO シェフ・パティシエ 黒木琢磨様

  ぶれない自分 自分を信じる  

五反田に佇む小さなチョコレート屋、「LES CACAO(レ・カカオ)」。香り高いチョコレートを求める人の行列ができるお店である。20年前に大ブームを起こした名だたるショコラティエ達。その立役者の一つピエールマルコリーニ。銀座本店には何時間もの行列ができ、新製品を心待ちにするファンが熱狂した。当時そこのファクトリーの中で黙々と働いていたシェフ・パティシエが本日ご紹介する黒木琢磨シェフだ。彼がいかにしてチョコレート職人になったのか。その想いを2日間にわたりご紹介する。

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◆見どころ

―チョコレート職人としての出発点

―大きな組織でのマネジメント経験

―カカオ豆に魅せられて

当時の日本には無かったチョコレート専門店

パリ市内にはレストランと同じようにショコラトリー、いわゆるチョコレート専門店が沢山あります。当時の日本にはまだ無い形態店でした。パティシエとして様々な経験をする中でもっとチョコレートを勉強したいなと思い、「Le CACAOTIER ル・カカオティエ」に就職しました。当時はパリの郊外にお店があって、そこに通いました。今は7区などにも複数の店舗がありますし、日本で買えるようにもなりましたね。最初のうちは、チョコレートの匂いがいいなーと思っていたのですが、一日中その中にいると飽きてしまって、特に夏場はそのチョコレートの甘い匂いに気分が悪くなったりもしました(笑)。そこではチョコラティエの基本、パティエのこだわりともいうべきことをたくさん学びました。チョコレートは水分、湿気が厳禁ですから、キッチンの中は一切の水分を入れません。水拭きもしませんし、水道、洗浄機もありません。乾いたものしか存在しない場所です。一番驚いたのは、私が手が汚れたから水で洗っていると、そもそもパティシエが手を汚すのが間違っているのだと。ショコラティエの基本的なスタンスともいえることを教わりましたね。見ていると、シェフはほんとに手を汚さないんですよ。それが最初はとにかく難しかったですね。大変だったことと言えば、フランスではイースターが一番チョコレートを食べるんですよ。日本のバレンタインデーみたいにね。中が空洞のイースターエッグをうんざりするほど作りました(笑)

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FAUCHONでの経験と自分のお店への夢

そこから日本でも有名なFAUCHONへ就職しました。もともとはカルディみたいな食材屋だった会社ですが、有名なパティシエのピエールエルメ氏もその昔FAUCHONに所属していたのもあって、今はパティシエの憧れというか、登竜門というような場所です。最新のモダンな洋菓子を作るしっかりしした運営組織で、幸運にもそこのケーキ部門に配属されました。当時のFAUCHONのグランシェフは、エクレアで有名なクリストフアダン氏で、その下で働けるものだとイメージして入社しましたが、所属するパティシエが100名くらいいる組織で、ケーキ部門だけでも30名ほどいましたから、たまに小さな私を見かけて「お!」くらいでした(笑)大きな会社はすごいです。

今までの小さなお店とは違って、会社組織としてものづくりをすることを勉強させていただきました。それぞれのポジションが分かれていて、パティシエが分担作業をしてケーキを作る。そんな規模の経営にまつわる現場で働かせていただいたのは貴重な経験でした。私自身は小さなショコラトリーの方が性に合っていますけどね。フランスでこのような様々な経験を積みながら、やはり自分自身のお店を持ちたいとだんだん思うようになりました。そしてそれは日本で出したいと考えたので、渡仏から7年が過ぎていましたが帰国することにしました。

 

カカオ豆からのチョコレートとの衝撃的な出会い

まずは開店資金をためるために、日本でシェフとして就職したのがピエールマルコリーニでした。それまでのピエールマルコリーニでは自社製品を輸入販売していたのですが、日本にショコラトリーをきちんと構えて出来立ての美味しいチョコレートを販売したいという戦略がありました。私はパリの本場でチョコレートを作っていた経験があるとはいえ、カカオ豆からチョコレートを作った経験はありませんでした。マルコリーニ氏はカカオ豆の選定からからがショコラティエの仕事であるというポリシーでした。私自身、その美味しさに当衝撃を受けたのを今でも覚えています。ここで初めてカカオ豆から作るチョコレートの魅力を知りました。当時、2009年前後の日本は本物志向のチョコレートブランドがブームでしたので会社も大変に忙しく、私はシェフの立場として会社やマルコリーニ氏の意向をきちんとものづくりに落とし込むという光栄にも責任ある立場で働きました。

フランスから帰国した当時に描いていた自分のお店のアイデアは純粋にフランス菓子のお店と考えていましたので、ピエールマルコリーニでの7年の経験は私自身に大きな影響を与えてくれました。東京学校からスタートした私の原点はお菓子でしたから、カカオ豆から作るチョコレートとフランス菓子を掛け合わせて、オリジナルの商品を開発することにしました。

開店祝いに駆けつけてくれたマルコリーニ氏と店内で

年単位で出来上がる理想のチョコレート

当店では、原産国で乾燥までしたカカオ豆をを仕入れています。それをロースト(焼成)、皮むき、すりつぶして滑らかにしていくという工程をすべて店内のアトリエで行っています。チョコレート造りは乾燥したカカオ豆をローストするところから始まります。この方法ですと、味も香りも自分のイメージした通りのチョコレートを作ることができます。チョコレート店によってはチョコレート自体を仕入れて、それを商品化するところが多いと思いますが、出来合いのチョコレートでは風味や舌ざわりが自分の思い通りにはならない部分がどうしてもあります。当店の製品はカカオ豆の原産国での選定から数えると、年単位での長期的な取り組みとなります。カカオ豆の収穫の時期は決まっているので、そこから逆算して土地の選定をします。実験的な試食を数カ月に一度やりながら、カカオ豆の熟成度を見極めていきます。実際にカカオ豆からチョコレートが製品になるまでには1-2年かかっています。

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日本の新しいチョコレート文化を作っていきたい

カカオ豆からの一貫工程で作った本物のチョコレートを使ったお菓子の魅力やその美味しさをもっと知ってもらいたいと思っています。いずれはこのスタイルやこの美味しさが日本ならではの文化として根付いて、日本のショコラティエは本気だぞ!とパリから言われるようになったら嬉しいですね。

20205月にコロナ禍で大変な時期ではありましたが、ご縁あって虎ノ門店を出店いたしました。五反田本店で作った商品をご購入いただけます。オンラインの販売というのも検討はしているのですが、生ものですし、なかなか配送までというのが難しいという現状があります。私自身が何よりもつくりたてのチョコレートの新鮮な味と立ち上る香を味わっていただきたいと思っているので当面は五反田本店と虎ノ門店でのみの販売になると思います。ぜひ一度ご来店ください。

パリの一角から抜け出してきたような可愛いエントランス

(了)

ライター:DEEN  取材・校正:NORIKO 映像:株式会社グランツ

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【取材を終えて】

いつもは店内奥のキッチンでチョコレートを黙々と作っている黒木シェフ。取材の際に拝見した笑顔がとても素敵でした。定休日に取材をさせていただきましたが、その最中、何度もお客様が「今日開いてるんですか?」とドアから顔を覗かせるほどにファンが多いお店です。(誤解させてしまってすみません!)新製品も登場していて、目が離せないショコラティエです。

 

◆黒木琢磨(くろき たくま)氏プロフィール

宮崎県出身

東京製菓学校卒業後、シェ・シマ勤務。

パティシエ・シマのオープニングを経て渡仏。

パリの 7年間で「STOHRER」、ショコラトリー「Le Cacaotier」、「FAUCHON」など

パティスリー、ショコラトリー、レストランで勤務。

日本に帰国後、ピエール・マルコリーニのシェフ・パティシエを経て​201611月独立開業。

 

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