日本のトップリーダー達の真実の表情を40年間も撮り続けてきたスゴい人!DAY1

肖像写真家 海田 悠様

『人生の刻まれた顔を撮るのが天命』

 

◆今日から2日間ご紹介するのは、日本の財産ともいえる貴重な人々を撮り続けてきた、肖像写真家、海田悠様。現役の総理大臣をはじめ、上場企業の会長・社長や各界著名人など、時代を創ってきたトップリーダー達、約1000人の心の鎧を脱がせ、本当の内面を撮り続けた唯一無二の写真家である。齢70歳を超えた今も尚現役として、活躍のジャンルはさらに広がりをみせる。その秘訣と心得を聞いた。

 見どころ

肖像写真家になるまでの道のり

― 落ちこぼれっ子が起こした大改革
― 写真に目覚めた運命的瞬間と遅咲きデビュー

―『経営者の肖像』に辿り着くまで

 DAY2を読む

編集部(以下編):今日はよろしくお願いします。

海田先生(以下敬称略、海):お手柔らかに願います。

 

編:いえいえ。こちらこそです(笑)。先生のその非凡な才能は幼少期から意識される程だったのでしょうか。

 海:そんなことはなかったけど、6人兄弟の真ん中で、一番変わってるとは言われましたね。おまけに育ったのが、大阪の風土でしたから、型にはまらない考え方は育ったかもしれません。でも小さいときに大病してずっと病院にいたので勉強はできなくてね。その代わり、大好きな自然豊かな環境で暮らしていたので、自然を通して色々と学んでいましたよ。

 

編:体感したことは全て宝となっていらっしゃるのでしょうね。

 海:だから小学校時代は読み書きが遅れがちで、あの子は...って後ろ指をさされていました。しかも面白いことに学校で図工がダメな子3人のうちの一人だったの。それが今こういうアートな仕事をしているんだから、学校の成績はあてにならないね(笑)。当時だって、自分の好きな物を表現したくて作品を作るんだけど、学校はどう思ったのかなあ。

 

編:アーティスティックで、評価が難しかったのかもしれませんね。

 海:高校はね、不良が沢山いる学校だったんだけど、何とか変えたいと思って、1年生から生徒会に入って大改革していっちゃった。学ランはちゃんと前を留めて着た方が格好いい!と言ってきちんと着るようにさせたりね。もう勉強よりずっと面白いし、先生方も「こんな生徒は初めてだ!」って喜んで協力してくれるし。それで人前に出ることに快感を覚えてね。優秀じゃない人間が生きていくには、人が知らないことを勉強すればいいんだ、って本を読むようになったの。

 

編:人を引き付けていく力が目を覚ました瞬間でしょうか。

 海:どうかなー。人と同じことはしない性格だったね。青年時代は学生運動の真っただ中。

だけど共産主義とかに皆が浮足だっていて、そういうの嫌いだったから、仲間と3人だけで名著を読んで、独学で哲学を勉強したりしていました。

それと同時に、小さい時から人の横顔が好きだったので、イタリアルネッサンスの美しい肖像画に惹かれ、ミケランジェロやダヴィンチを参考にしながら人間の横顔ばっかりスケッチしてました。

 

編:当時は絵だけで、写真は特に?

 海:その頃は全然。後に女房と出会って旅行に行った際、兄貴から借りたカメラで女房をルンルン撮って見せたら、「あなたって才能あるわね」って言われ、俺ってセンスあるのかな、ってすっかり乗り気になったの(笑)。

それからは、肖像画を描くよりも写真の方が早いから、と写真を撮るようになりました。

 

編:奥様スゴいですね!写真の勉強をそこから始められたんですか?

 海:東京綜合写真専門学校ってね、名だたる写真家たちが出た学校なんですよ。でも遅咲きの僕はもう26歳になっていたから、創立者の重森弘淹先生の面接時にね、「今から始めて30歳になった時、写真の仕事なんてできるかなあ」って言われたんです。

「年齢は関係ありません。やるかやらないかです!」って答えたの。

 

編:カッコいいですね!

 海:著名な篠山紀信さんたちは、学生時代から撮ってたし、みんなより遅かったのは確か。

 

編:そんな当時の常識を覆して、今があるわけですよね。肖像写真を撮るようになったきっかけというのは何だったのでしょうか。

 海:東京に出てくる手前の2223歳の時、何かの討論番組を見ていて、推定50歳前後の男性の顔にふと惹きつけられたの。その人はお坊さんでもないのにものすごくストイックで、隙がなく、すっきりして爽やかな顔立ちでね。そしてその人の紹介は「経営者」と出てたので、「経営者とはこういう顔になるものなのか?」って思ってね。

 

編:ではその答えを探し始めたのがきっかけという事でしょうか。

 海:やっぱり人間っていうのは、「顔を作っていく」ものなの。その人が何をやったか、顔に全部出るし、悪いことすると、顔も変わる。それで人の顔に魅せられて、もう1000人です。

 

編:一流の人と向かい合って、どんな思いでシャッターを切られるのですか?

 海:写真は撮る人と撮られる人の共作です。単に私が撮影するということではなく、その人の最も素晴らしいと感じる良さを表現したい、あなたの素晴らしい人生を今の瞬間撮りたいんだ、っていう気持ちを強く持ちます。その価値ある人生が放つエネルギーを僕の感覚や人生経験をもって表現する。その写真はその方にとってある意味「肖像画」となります。責任を感じます。

 

編:被写体に引けを取らない、知性や人間力を持っていないと受け止められないですよね。

 海:僕の写真集「産業人魂」シリーズは全国2000か所もの図書館に献本しました。だからみなさんも緊張されるのよ。100年後もずっと残り、子孫にも見られるかもと考えたらね。だけど撮影の緊張感が終わると、もっとやれたんじゃないかと反省するんです。でも同時に、これほどの人間の大きさと人生のすばらしさに感動できるなんて、こんな幸せな時間はない!とも思います。だから、撮影時の会話はよく覚えています。

 日本のトップリーダー達の素顔の数々

編:お気持ち、すごく伝わってきます…。

先生と一流の被写体の方々との“共作”は、どのようにスタートしたのでしょうか?

 海:みっちゃん(日本高速通信株式会社 常務取締役伍堂光雄氏)が私の背中を押してく

れたのが最初です。みっちゃんのご実家、伍堂家に遊びに行った時、皇室の方や、テレビで見かけるような著名な方々が和気あいあいと楽しんでいたの。これは何なんだ?って驚いたね。

 

編:サロンのような感じですね、スゴい!

 海:その時、たまたまみっちゃんに自分の夢を話したんだよね。人の顔の写真に興味があること。特に年齢とともに皺などを刻んでいる表情がアートだと思うんだよってね。するとみっちゃんがお父さんに伝えてくれたんです。このお父様が元JALの会長だった伍堂輝雄さんでね、まさにすごい人脈を持っていたわけです。「年寄りの皺は美しいから撮りたい?あの青年は変わっとるなあ・・・。よしっ」と、自らがモデルになり、撮らせてくださったんです。しかも帰り際に、どなたかご紹介下さい、とお願いしたら、松下幸之助さん、本田宗一郎さん、盛田昭夫さんら22名のリストまで書いて下さって。

 

編:伝説の一冊『経営者の肖像』は伍堂輝雄さんの写真が最初の1枚だったんですね。

 海:「(22名が)応じてくれるかどうかは、君の情熱次第。ダメ元で当たって砕けるしかないよ」って。今は僕のアトリエで撮影するけど、かつては機材を全部担いで持って行って撮影してました。

 

編:そうだったんですね。このアトリエは青い小鳥さんたちが自由に飛び飛び交い、緑豊かで楽園のようです。撮影される方もリラックスできるのではないでしょうか。

 海:よく言われます。ここは植物の匂いがするとね。だから、アトリエに偉そうに入って来てぶ然と話す方でも、この空間で心に寄り添うコミュニケーションを取りながら撮影していくと、徐々に好反応になっていくの。そしてそういう人の方が僕の展覧会も見に来てくれます。企業の看板を背負ってがんじがらめになり、その人の良さまで消えてしまうことがあるので、

「ここは鎧を捨てる場所。あなた自身に戻る場所です」と言ったり、「今日は遊びましょう!」と言うときもありますよ。

 スタジオ内は鳥が飛び交う、自然あふれる空間

編:その人の素の表情を引き出す魔法のようです。

 海:組織には指示系統、人を動かす為の秩序があります。そのトップに立つには組織のピラミッドを生き抜く忍耐力と組織を動かす知恵が必要です。

一方で私との撮影時間は組織ではなく、個人のこと。僕が撮ろうとしている写真が何なのか。何のために今日写真を撮るのかを明確に伝えて納得してもらうんです。

 

編:個人対個人のステージをきちんと創り出すんですね。

 海:一人と一人の勝負。物事のすべては最終的には人間次第。僕自身の飽くなき探求心が何たるかを突き詰めて話をすると、必ず耳を傾けてくれます。

 

編:なるほど。その過程においてトップリーダー達が自分自身の姿を見せてくれるようになるのですね。

2日目に続く)

取材:Noriko ライター:MAYA 

◆海田 悠(かいだ ゆう)氏 プロフィール

1947年 大阪生まれ

1985年海田悠写真事務所を設立

 

◆肖像写真・作品

「経営者の肖像」「日本の女将」「表現者の肖像」「輝いている・31Femmes

「ふだん着の政治家」「新・経営者の肖像」「産業人魂」「産業人魂Ⅱ」他

各作品を銀座和光ホール、銀座ミキモトホールなどにて展示

 

◆舞台写真

「猿之助夢見る姿 スーパー歌舞伎『新・三国志』のできるまで」「FESTA2003

「舞台裏のエトワールたち」写真展「華麗なる世界(東京バレエ団)」展 他

 

◆自然/風景写真・作品

「松下真々庵」写真展inパリ 「蜃気楼・シルクロード」展 他

 

◆公式HP  kaidayu.net

 

◆出版、展示予定

2021年秋頃に、企業経営者100名の肖像写真と直筆のサイン、座右の銘、次世代への熱きメッセージを載せた『産業人魂Ⅲ』を出版し、2022年春頃に同作品の展覧会を開催する予定。

 

 

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