今日、明日ご紹介するのは、80年代から40年近く、脚本家として矢継ぎ早に数々の名作映画や、高視聴率ドラマを送り出し、黄金時代をいくつも築いてきた来たスゴい人。
『うちの子にかぎって…』『パパはニュースキャスター』『君の瞳に恋してる!』『逢いたい時にあなたはいない...』『ストレートニュース』『レッツ・ゴー!永田町』と、作品群のほんの一部を挙げ始めただけで「わあ、見てた!」「思い出すとキュンとする!」と思わず言ってしまう方も多いはず。長きに渡る怒涛の勢いのご活躍に到るまでの軌跡と、その中で大切に守って来られた崇高なスピリットのスゴい!を追う。
さあ、脚本家、伴一彦様のご登場です!
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◆みどころ
―脚本を書く前、打合せの裏話
―伴先生の唯一の大きな失敗
―やってみたい仕事
編集部(以下 編):本日もよろしくお願いいたします。
さて、昨日はデビューまでの軌跡について伺いました。今日は、伴先生の仕事の流儀からドラマ制作の裏話、そして今後の展望までお伝えしたいと思います。
編:認められるようになり、スポンサーさんや視聴者の求めるもの、与えられた制限、既定のある中で、皆を納得させるものを作り出すのは難しいと思うのですが、これはほとんど自分の思い通りにできた!という作品はありますか?
伴:そもそも僕が連続ドラマを書き出した頃と今とでは、作り方が全く違うんです。今は、役者さんも局側も、当てなきゃいけない、儲からなきゃいけないというプレッシャーが強く、先が見通せない話には乗りにくい。俳優も同じです。だから原作ものが多くなる。どういうドラマになるか見えますからね。オリジナル脚本の場合でも、ラストまでのあらすじを要求されます。でも昔は、主演俳優とプロデューサーと、僕と座組が決まっていて、次はどんなドラマにしようかと考える。各回の大まかな話と最終回の着地点をなんとなく決めて、他のキャスティングと並行しながら話を作っていきました。作ってる僕たちがどんな話になるか判らないんだから、視聴者には絶対判らない(笑)。連続ドラマってそのほうが面白くないですか?僕もプロデューサーも俳優もスタッフもみんなが面白いと思うことで、視聴率が取れていたんじゃないかな。
編:当時の作り方は、聞いていてワクワクしますね。
伴:倉本聰さんは、新人の頃、職人に徹して書きまくられたそうです。そこから自分の世界を作り上げていかれた。『北の国から』は、こういうコンセプトで作れば当たりますよ、と戦略的に作られたわけじゃない。倉本さんはNHKと揉めて、北海道に行かれ、富良野で生活する中で実感したことをドラマにされたんです。プロデューサーは俗なことも考えなくてはいけませんが、作家は自分の世界を突きつめることを考えたほうがいいんじゃないかな。
編:なるほど。
伴:8月発売の『月刊シナリオ』に、原作とオリジナルシナリオについての特集が載ってます。今の映画にオリジナルが多いのは、テレビ以上にお金がなくて原作を買えないから、という記事がありました。オリジナルで制作費が多いのが理想ですけどね。でも原作ありで制作費やロケ場所、今なら新型コロナによる制約が多い中でも自分らしいドラマを創ることはできると思います。とはいえ、“自分”がなければダメですけど。
編:ところで先生、仕事または人生における大失敗を経験なさったことはありますか?
伴:そんなにないですけど。連続ドラマの仕事が続いて疲れたので、「1年間休業します」と言って、連続ドラマを2つくらい断ってゴルフをして過ごしてたら、翌年、全く仕事が来なくなっちゃったことがありました。仕事は断っちゃいかん、っていうのが教訓です(笑)。
編:伴先生の代わりに選ばれた脚本家の方は、大きな仕事で出世したかもしれませんね。
伴:確かに僕が断って、あの人が書いて評判になった、というドラマはありますね。言いませんけど。俳優さんでも、ピンチヒッターでやった仕事がその人の代表作になった、というのも多いですね。
編:リサーチはどのように? 世の中が求めているものを先取りして読んで、お書きになるのですよね。
伴:そういう気持ちでリサーチすることは、全然ないんです。もちろん、登場するキャラクターや業界にリアリティーを持たせるために必要なことは調べます。
編:視聴者のリアクションは気になりますか?
伴:今はネットですぐに視聴者からすぐにリアクションがありますね。あまり惑わされないようにしようと思ってます。一応見ますし、なるほどなと思うこともあります。ムカつくこともありますが、それで書くものが変わることはないですね。自分が書きたいもの、自分が観たいドラマを書く、という自己愛は貫きます(笑)。
編:確かに自己愛をかなり強く持っていないと、ブレてしまいそうですね。でも、面白いと思うことを、先生のスゴいフィルターを通し、信念を持って渾身の力で表現されたものをシェアしていただくのですから、私たちはちゃんと愛を受け取っています(笑)。ところで先生、ズバリ!今はどんなテーマに興味がありますか?
伴:それは内緒にしときましょう(笑)。
編:あはは。企業秘密ですね。台詞はやはり、耳に残る名言を意識してお書きになっているのでしょうか?
伴:流行らせようと意識することはないです。『パパはニュースキャスター』の毎回のナレーション「愛情の愛と書いてめぐみ」は流行したようだけど、流行らせたいと思っていたわけではないです。
編:愛(めぐみ)ちゃん。可愛いお名前ですよね。実際モデルはいたのでしょうか?
伴:『うちの子にかぎって...』の子役で、ひらがなで「めぐみ」という名前の子がいたんです。リハーサル室に遊びに行った時、ランドセルの中に「愛」って書いてあるから、「愛って書いて、めぐみって読むの?」って訊いたら、「そうです」って。酔って口説いてできた子供を3人にしよう。3人とも下の名前が同じだったら面白いよね、と盛り上がった時に、彼女のことを思い出したんです。「愛情の愛と書いてめぐみ」って面白くないですか?って提案しました。
編:子役の愛(めぐみ)ちゃんは、『パパはニュースキャスター』を見て、(これ、私の名前が使われた?)って思ったのでは(笑)?
伴:どうですかね。『うちの子にかぎって...』の子役たちの何人かとは連絡取っていますが、残念ながらその子は繋がってないので、確かめられないんです。ちなみに、『パパはニュースキャスター』の視聴者で自分の娘に「愛(めぐみ)」って名付けたという話は時々聞きました。
編:影響が大きいですね!ところで、八木プロデューサーの奥様が、ニュースキャスターという職業の設定を提案なさったそうですが、他にも色んな職業が候補に挙がっていましたか?
伴:私に話が来た時は、「田村さんがニュースキャスターやるのはどう?」と八木さんはもう決めてました。私も一も二もなく賛成しました。それまでの作品も「次、田村さんで何をやろうか」と話してきて、クールな外科医だけれど、幼稚園児の面倒を見なくてはならなくなるという『子供が見てるでしょ』。次はカッコいいけれど、私生活では子供嫌いで酒と女にだらしない『パパはニュースキャスター』。次の『パパは年中苦労する』は、実は子供好きの田村さんからヒントを得て、売れっ子作曲家で女性にモテるけれど、いい雰囲気になった時に自分の子供の写真を見せてしまいチャンスを逃してしまう男にしました。
編:田村さん、子供たちから大人までずっと人気がありましたし、しなやかに色んな職業を表現なさってましたよね。しかし伴先生、意外にもコメディはあまりお好きではなかったとか?
伴:昔から喜劇映画を見るのはあまり好きではなかったのですが、書いてみたらコメディになりました(笑)。テレビドラマのデビュー作『探偵同盟』は元々コメディータッチだったし、ロマンポルノのデビュー作は、プロデューサーから、「ギネスに挑戦!」というコンセプトで考えてみてと言われたんです。僕は情念の世界は苦手なので、結婚前に100人の男とSEXする目的で上京した女性を主人公にしたら、コメディになっちゃった。私のイメージはコメディですかね?『逢いたい時にあなたはいない...』や『WITH LOVE』といった恋愛もの、また『ストレートニュース』、『レッツ・ゴー!永田町』『サイコドクター』などの社会派、僕は、この3つのジャンルを得意としてるつもりなんですけど(笑)。
編:恋愛ものも、社会派も、作品によって描かれる世界観が全く違い、それぞれ本当にステキですよね。ところで、数々のお仕事で、腹の立つことってありましたか?
伴:プロデューサーとホン(脚本)作りをして監督に渡したら、好き勝手に変えて演出され、激怒したことが何度かあります。ホンを渡すまでが脚本家の仕事で、あとは演出の領域だからある程度は仕方ないと思うけれど、直しを提案しても梨のつぶて、勝手な演出をしたのに、スタッフタイトルの監督名を架空のものにしてオンエアした、というケースもありました。演出の上手下手はありますが、仕事仲間の信頼を裏切るのは許せなかった。
編:それは酷い...ショックでしたね。ところでコロナの中、ネット配信の演劇が好評ですが、いかがお考えですか?
伴:配信も色々ですね。固定のワンカメでただ舞台を映しているものもあれば、数台のカメラでカットを割っているものも。ナショナル・シアター・ライブやアンドリュー・ロイド・ウェバー・チャンネルの作品は映像作品として見事でした。ZOOMを使った画面分割の演劇も増えましたね。その中で、仮想空間を舞台にした劇団ノーミーツの作品は新しく感じました。演劇じゃなく映画のようでしたが。形は新しくてもドラマとして伝えたいこと(友情は大事、仲間がほしいなど)は変わらないな、と思いました。やはりドラマは葛藤なんですね。
編:先生は人が好きで、興味を持っているからドラマを書けるのですよね。
伴:いや、人は好きじゃない(笑)。よく人物を書き分けるためには、色んな人に会って観察しなさい、ってアドバイスする人がいますけれど、僕は違います。人間って自分の中に色んな顔を持っていると思うんです。ネクラなところもあれば、ネアカなところもある。女っぽいところ、逆に男っぽいところもある。ズボラなのに時には几帳面だったり。そういった部分をブローアップして人物を作るんです。だから、登場人物はみんな自分の分身です。
編:それはきっと先生がご自分と正面から向き合い、冷静に観察なさるからできる手法なんですね。
伴:まあ、『パパはニュースキャスター』の鏡竜太郎の酒好きでだらしないところはそのまま自分だったりします。
編:ということは、ご自分の恋愛経験もストーリーに織り込まれたりしますか?
伴:さあ(笑)。取材に限らず見聞きしたこと、経験したことは無駄にはしません。例えば『ノンママ白書』で、50歳の女性が老眼鏡を使わないといけなくなったことを隠そうとするシーンを書いたんですが、女性のプロデューサー(50歳)から、最近はお洒落な老眼鏡が多いから、いくつも買って楽しんでかけていると言われ、目からウロコでした。もちろん、そのシーンは直しました(笑)。『うちの子にかぎって...』の石橋先生の奥さんの言動は私の妻を参考にしましたし、『君の瞳に恋してる!』の中にはその頃よく話していた女の子の言葉をそのまま使ったこともあります。
左から、西村友里、大塚ちか子、伴先生、西尾麻里、仁科幸子、高橋幸香、です。
編:よく話していた?
伴:はい(笑)。
編:うふふ。ご自分の内面と、取材、経験したことをうまく融合させて作り上げるのですね。そうして出来上がった脚本を送り出す時は、どんなお気持ちなのでしょうか?
伴:どんな作品に仕上がるか、楽しみに待ちます。才能のある監督は、脚本より更に面白くしてくれますからね。脚本はラブレターだ、とベテラン脚本家の鎌田敏夫さんが仰言ってました。スタッフへのラブレターであり、観客(視聴者)へのラブレター、そして自分自身へのラブレターだ、と。私もラブレターを書き続けたいと思ってます。
編:わあ、とても素敵!みんな伴先生からのラブレターを受け取っているんですね。・・・と、しみじみと浸っているのに突然ですが、今までお話したことのないここだけの話を、教えていただけますか?
伴:『レッツ・ゴー!永田町』の時に、亡くなった某政治家から圧力が…(笑)。談合のエピソードの時、絶対存在しないと思ってアテネ建設という会社名にしたら、その政治家が関わっている会社の名前が似ていたらしく(笑)。また、省庁の名前は出さないでくれ、とか。まあ、安倍政権のやってることに比べれば可愛いものです。
編:そうでしたか...。貴重なお話をありがとうございます!今後、脚本以外にも何かやってみたいことはありますか?
伴:畑違いのことをやりたいです。就職したことがないので、会社員に憧れます。もう定年の歳ですが(笑)。弁護士の友人が多いので、弁護士の助手も面白そう。犯罪者に会ったり、調べ物をしたり、という手伝い。同じように、リサーチャーも面白そう。脚本家は色んな職業の人たちとリアルに会うので、飽きないし、取材もしますが、フィクションの世界で生きてきたので、リアルをベースにしたドキュメンタリーも面白そう。それから小説も書いていきたいですね。映画やドラマの企画が通りにくいし。
編:小説といえば、奇しくも本日より、先生の小説『追憶映画館 テアトル茜橋の奇跡』が発売ですね。(やらせではなく、偶然にも今日が配信日なのが、本当に驚きでした!)
伴:『PHP』という雑誌の増刊号に連載していた読み切り小説8編を再構成し、加筆修正したものです。脚本家らしく、名作映画をモチーフにしました。また、11月か12月にはオリジナルの長編小説も出版予定です。
編:それは間違いなく映像化されますよね。今からとても楽しみです!今日は本当にありがとうございました。
伴:映像化されるといいんですが。ありがとうございました。
【取材を終えて】
伴先生にお会いしてすぐ、テナーバス音域の穏やかで渋い語り口に魅了された。そこから発せられる言葉には、注目を浴びつつも、若い頃からずっと、良く見せようというエゴとは無縁でご自分の本音に従い、自然体でお仕事されて来たのがはっきり見て取れ、潔くカッコいい。ご自分が面白いと思うことを皆とも共有できたらいいな、という広義の愛が核となり、あれほどのヒット作が次々と生み出されて来たことに、静かな感動を覚えた。また、作品を見て様々な感情を味わって来たけれど、それを強固に下支えする屋台骨は、伴先生の脚本の存在だったのだと改めて思うと、これにもまた感謝と感動が新たに湧いてくるのだった。
◆伴一彦氏 プロフィール
福岡県出身 1954年8月3日生まれ 日本大学芸術学部映画学科シナリオコース卒業。在学中より石森史郎氏に師事。
◆作品歴
・テレビドラマ『うちの子にかぎって...』『子供が見てるでしょ』『な・ま・い・き盛り』『パパはニュースキャスター』『君の瞳に恋してる!』『恋のパラダイス』『逢いたい時にあなたはいない...』『子供が寝たあとで』『誰かが彼女を愛してる』『ママのベッドへいらっしゃい』『透明人間』『ストレートニュース』『レッツ・ゴー!永田町』『サイコドクター』『喰いタン』『デカワンコ』『東京全力少女』『世にも奇妙な物語』『ノンママ白書』他多数。
・Webドラマ『でぶせん』(完全版)
・映画『バックが大好き!』『デボラがライバル』『殴者』『初雪の恋 ヴァージン・スノー』他多数。
・舞台『舞台版JKニンジャガールズ』
◆公式HP 「BAN IS FOR BAN」‐ぷらら www.plala.or.jp/ban/
※2020年9月現在、更新は停止中です。
◆最新著書 2020年9月10日発売!
『追憶映画館 テアトル茜橋の奇跡』(PHP文芸文庫)
2021年1月20日発売!
オリジナル長編小説 『人生脚本』(光文社)
◆既存の著書
『逢いたいときにあなたはいない...』(1992年・ワニブックス)
『ラヴ・コール』(1994年・扶桑社)
『みにくいあひるの子とよばれたい』(1995年・偕成社)