エコのリングをつなぎ、真の循環型社会を本気で創っているスゴい人!川端宏様▶DAY2

兵庫県姫路市に本社を置くリユース企業の株式会社エコリングは、「なんでも買い取り」を旗印に急速に店舗数を拡大している業界内でも注目される存在だ。20254月に創業者の桑田一成氏から社長を引き継いだ川端宏氏。創業当初より事業に携わり、異国の地で海外展開をけん引してきた同氏が、カリスマ経営者の後継を担うに至ったのはなぜか。同氏の素顔に迫った。

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売上激減と生き残りをかけた改革

コロナでロックダウンという状況の中、なんとか店舗にある在庫を通販という形で販売しましたが、日本から商品を積んだコンテナは来ないので、売上はなんと前年比70%減。この危機的状況をなんとか乗り越えるために、家賃の減額交渉に奔走。さらには人件費のカットもせざるを得ず、社員に説明すると、例えば、「自分はバイクを持っているから、しばらくの間、バイクタクシーをやります。その間は休みにしてもらって、別で稼ぎますので、給料はいりません」みたいな発言をしてくれる人が出てくれたんです。「実家に帰れば家賃もかからないし、食事ができるから、とりあえず休みにして田舎に帰っています。」という人も。ラーメン店はデリバリーだけはOKだったので、「実家のラーメン屋を手伝います」とか。各社員がいろいろな方法を自ら考えてくれて。もちろん幹部の給料も下げて、なんとか人件費を半分にまで抑えることができた。それでも、あと 3割ほど売上を作らなきゃいけないんですが、これ以上はどうしようもありませんでした。一時は、来年以降のために投資した、まだ稼働していない一番大きな倉庫の扱いをどうするかなども検討していたのですが、そうこうしているうちに、少しずつ国のコロナ感染対策が緩和されてきたんです。

そこで、タイでも買取専門店を開くという決断をしました。売上の厳しい都会の中心にある販売店を改装して、カウンターを設置してソファを置いて、バックヤードを作ったら買取の店舗になる。2週間ほどで準備してオープンさせました。すると 2か月後には、日本と同じレベルで買取ができることがわかったんです。

事業回復と新たなビジョンの萌芽

買取した商品は今まで通り、販売店の社員がSNSや携帯電話を駆使して売ってくれる。同じレベルで収益が得られる店舗が3店あれば黒字になるとのシミュレーションが出たので、店舗増に動き出したのが、2021年のこと。結果、3店舗とも同じレベルの買取量を仕入れてくれるようになり、黒字に転換できた。さらにあと3店舗出したらコロナ禍でカットした人件費を元に戻せると思って、開店させました。出店を最優先して、鑑定士を育てる時間がなかったので、僕がその6店舗を回りながら鑑定していたのですが、どの店舗も日本と同じレベルで買取が進むようになった。結果、みんなに我慢させてしまったボーナスカット分を、2022年と2023年で全額お返しできたんです。大きな事業転換ができたところで、日本からまたコンテナが動き出した。日本から送られてきた商品を販売する既存の事業の売上が回復したことに加えて、買取専門店の出店で、タイ国内で仕入れてタイ国内で販売するという事業もプラスされて、2023年は業績好調に推移しました。赴任から7年、組織の立て直しとコロナ対応で息つく暇もありませんでしたが、ようやく一段落となり、新しいこともやろうとか、10年後のビジョンも考えようみたいな余裕が出てきたんです。

突然の社長就任打診と帰国決断

2024年2月頃に、桑田代表から社長就任の打診を受けました。タイで骨を埋めるつもりで赴任していたので、突然のことで驚きました。桑田代表は弊社社長とエコリング・ジャパン・ホールディングスの社長を兼務されていましたが、グループ会社が増える中、グループ全体の行く末を考えた時に、自身はホールディングスの社長職に専念したほうが良いと判断した、とのことでした。僕も、会社のためになるのであればもちろん賛成ですので、自分が描いてきた今後の構想は一旦リセットして、その思いを受け止めて帰国しました。代表には、業務の引き継ぎが必要なので、一年間お時間をくださいとお伝えしました。日本在住の社員に対して後任の募集をかけて。手を挙げてくれた社員の中から1人を選んで、昨年9月にタイ社に着任してもらいました。彼にはこの4月のギリギリまで一緒に引き継ぎをして、今もいろいろ連絡を取りながらやっています。もっとも、僕を支えてくれた秘書が引き続き彼についてくれていますので、そこは安心しています。

新社長として目指すチーム力の最大化

現地での引き継ぎが終わり、43日に帰国したら、当日の仕事の予定が既に入っていました。実家に帰って車を取って、そのまま倉庫に行って打ち合わせが始まり、次の日も予定が詰まっていて。そんな日々が今日まで続いています。10年ぶりに日本に戻ってきましたが、浦島太郎的な感じといいますか、会社はやっぱり想像以上に大きくなっているなと実感します。会社は従業員数も事業規模も拡大し、収益的にもしっかりしていますが、そのぶん機敏な動きは昔のようにはできないということも受け止めています。

桑田前代表はすごく大きな存在で、社員との距離も近く、話もよく聞いてくれる方です。グループ会社も含めれば、直接育ててもらった人もたくさんいる。特に弊社社員にとって創業以来のトップが変わるというのは、大きな出来事。しかも僕は約9年、日本にいなかったので、知らない社員もたくさんいた。なので、社長就任に当たって社員に伝えたのは、規模的にも人数的にも非常に多くのメンバーがいて、専門性の高い者も多い。みんなすごく優秀なので、もっとチームの力を発揮できるようにしたいと。これまでは、神様みたいな存在だった桑田代表がみんなを引っ張り上げて進み続けていたのですが、これからはみんなのそれぞれの力を目一杯伸ばしてもらう。その力を最大限に出し合えるような状態を作りたいというような話をしました。

エコリングの強みは「お客様との距離感」

買取専門店はたくさんありますが、弊社の売りはお客様との距離感。距離が近いっていうのは絶対に変えちゃいけないことだなと思っています。お客さんと近くて、話ができて、適正価格で買取をする。お店に出ている鑑定士がお客様の前に立ってどんな振舞いをするか、どんな話をするか、どんな行動をとるかっていうのはすごく大事。日本人って遠慮しがちで、こんな物を持って行ったら恥ずかしいとか、こんなの買ってくれるかなって、不安になったりする人も多いと思います。

そこで弊社では、気兼ねはいりませんよ、何でも買いますよってお客様に丁寧に伝えます。それによって、次に利用してもらえる人の手に商品が渡るわけです。使わないものを家に置いていても、何にもなりませんからね。自分のいらないものを弊社にお持ちいただいて売ったら、「いいことをした」と思ってもらえるような会社になりたい。お客様に喜んでもらう仕掛けとして、今年の416日に、弊社初の買取・販売併設店舗「マイエコリング立川店」を東京の立川にオープンしました。買取だけではなく、小売りを併設することで、弊社の商品を一般のお客様に実際に手に取ってもらう機会が生まれます。テスト店舗ではありますが、どんなに失敗しても3店舗はやるぞという意気込みで進めています。

リサイクル事業への展開で真の循環社会を目指す

弊社の長期ビジョンにも入っているのですが、今後はリサイクル分野にも進出していきたいと考えています。弊社のメイン業態はリユースですが、リユースというのはいわゆる“延命”なんです。製品が生産されて、それをお客様が購入して使わなくなったら、リユースする。それによりその製品は不用から有用へ命を得ます。その人がまた使わなくなったら、もう 1回リユースされる。しかし、やはりいつかは必ず製品は廃棄という終わりを迎えてしまうわけです。リユース業界ではどの社も「循環社会に貢献する」と謳っていますけど、厳密に突き詰めていけば、循環には至っていないんですね。

そこを弊社の役割として「製造」に送ることができれば、新しい商品に生まれ変わります。製造→販売→リユース→リサイクル。弊社のサービスの中で確実に、そして完全な循環が可能となります。弊社で買い取りをさせていただくことがお客様にとって、社会にとって良いことをする「入り口」なんだと思ってもらえたなら、社会が大きな一つの輪になると考えています。

また弊社は、サステナビリティを推進する会社としてB Corp認証を取得しました。B Corp認証を得るには、たくさんの細かな基準があって、自分たちが事業運営するのにどれぐらいのゴミの排出量があるかとか、CO2をどれくらい出しているかとか、こうしたデータをグループ全体で算出して、基準をクリアして初めて認証されます。3年ごとに更新があるので、会社としても気を緩めることはできませんが、そのつど自分たちを振り返ることもできるのです。今後もその認証を有しながら、長期ビジョンの達成に向けて尽力していきたいと思っています。

 

川端宏氏 プロフィール:

1979年、大阪府生まれ。2006年、エコリング入社。尼崎店配属後、同店店長、北関東エリア、関東エリアのマネージャー職等を歴任し、16年、常務取締役。17年、Eco Ring Thailand Co.,Ltd. 代表取締役社長として、同社の立て直しに尽力。254月、エコリング代表取締役社長に就任。

 

 

エコリング公式サイト:https://ecoring.co.jp/

取材後記:リユース業界に革新をもたらしたと謳われる創業社長から経営を引き継いだと聞くと、そのプレッシャーは相当なものと想像しますが、決して気負うことのない、自然体でリラックスした表情が印象的でした。消費者の節約志向や環境意識の高まりで、年々、市場規模を拡大させ、存在感を増しているリユース業界。だからこそ、エコリング社の循環社会の実現に向けた取り組みが注目されています。持ち前の行動力とアイデアで困難な壁を乗り越えてきた川端氏が、どう手腕を発揮するか。今後の動向が楽しみです。

(了)

インタビュー:中俣拓哉/長澤千晴 ライター/長澤千晴

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