元メジャー映画配給会社の営業統括部長。映画ビジネスを知り尽くすスゴい人!山口和浩様▶DAY2

経理部員からスタートし、場末の映画館支配人、チケットセールスを経て邦画配給に従事。やがてシネコンの心臓部である番組編成を担当。そして世界的メジャー配給会社ソニー・ピクチャーズで営業統括部長として業界にその名を轟かせた――。マリブコーポレーション代表取締役の山口和浩氏のキャリアは、決して華やかな道のりではなかった。剣道で培った「成せば成る」の精神で、挫折と下積みを乗り越え、ハリウッド映画への夢を追い続けた結果、映画ビジネスのウラもオモテも知り尽くす映画人となった。60歳で独立した今、次世代への知見の継承と、シニア世代の活躍の場づくりに情熱を注ぐ。その波乱万丈の半生と、映画業界への熱い思いを語ってもらった。

夢見る大人を増やしたい

YouTube

番組編成力の確立と先売りシステムの開発

ワーナー・マイカルに転職したことで、各ハリウッド映画のVIPですとか、世界的な配給会社の日本の代表クラスの方とお近づきになれて、自分の名前を覚えてもらうことができました。当時公開された映画としては『A.I.Artificial Intelligence)』(2001年:スティーヴン・スピルバーグ監督)や、ハリー・ポッター映画シリーズの1作目となる『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年:クリス・コロンバス監督)などがありました。観客動員力のある映画を大規模に複数のスクリーンで上映するっていうのを初めて体験したのは、やはり『ハリー・ポッター』ですね。最大8スクリーンまで上映できるので、日比谷や丸の内といった東京都心の一等地にある映画館よりも動員数が確保できちゃうんですね。自分で戦略性を持ってそういうブッキングができた経験は、他の劇場営業担当と自分自身を差別化できる最大の武器になったのかなと思います。あと培ったのは番組の編成力でしょうか。基本的には入る作品を順番でかけていくのが鉄則なんですけど、入るものをより入るようにするにはノウハウが必要です。また、上映開始の一ヶ月ぐらい前から、ある作品だけ、通常の前売り券とは違って席予約も含めて発券してしまう先売り。今ではよくあるシステムですが、このシステムを開発したのは私で、当時は珍しかったんですね。このように、実務的な革新、自分の思っていたことを全部実現できたというのは、この時代に得た強みですね。

ソニー・ピクチャーズへの転職 - メジャー配給会社での挑戦

ソニー・ピクチャーズに入社した40歳の頃

ワーナー・マイカルにいたのは4年弱で、2003年、40歳の時に、そこから世界のメジャー配給会社の一つであるソニー・ピクチャーズエンタテインメントに転職しました。ハリウッド映画を今度は配給する立場で扱いたいと思ったからです。たまたま同社の社員とツテができて、その方に何度となく夢を語っているうちに、「希望があるなら、うちの面接を受けてみたら?」と声をかけてくれたんです。日本を統括している同社のトップとの面接があって、無事内定を得ました。ソニー・ピクチャーズでは、シネコン等に作品を提案する側になりますので、シネコンの内情を知っている者としては、提案力で他のセールス担当と差別化できたと思います。世界のメジャー配給会社は当時5社あって、ソニー・ピクチャーズのほか、ブエナビスタ(現ウォルト・ディズニー・スタジオ)、UIP、ワーナー・ブラザース、20世紀フォックス。ソニー・ピクチャーズに入社して感じたことは、たかだか映画業界ですけど、「自分は仕事ができるからメジャーに入ったんだ」っていう意識の高い人ばかりだったことですね。

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』の大成功

映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』劇場ポスターより

自分の中で思い出深いのは、2009年に公開されたマイケル・ジャクソンのドキュメンタリー映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』ですね。当時はまだ普通のマネージャークラスのポジションだったんですが、部長から「山口はこの作品どう売るんだ?」と聞かれたので、「当然、トップの劇場に持っていって、300館近くで勝負する。売上はこれぐらい上がる」って提案をしたんですね。そうしたら、周りのライバルたちは、もうマイケルの時代は終わった。ネバーランドの件で悪評も高い。単館作品、アート系で十分だ、という評価でしたが、結果は大ヒット、4週間で約52億円のチケットセールスになりました。絶対ヒットするとの確信がありました。グループの強みじゃないですけど、ソニーミュージックがマイケル・ジャクソンの権利元なんです。そこで、ソニーミュージックとコラボして、音楽誌とか音楽媒体にすべてパブリシティで、いわゆるただの宣伝で載せられたんですよ。私はまだ配給のマネージャーだったので、陣頭指揮は宣伝部のプロデューサーが行い、私は横でやり方とかノウハウを学びました。

 

小規模作品から学んだマーケット構築術

映画『スパイダーマン ホームカミング』ジャパンプレミアのイベント運営も担った

メジャーの会社はどちらかというと、いわゆるアート系の作品とか小規模の公開って誰もやりたがらないんですよ。で、逆に私は、そういう作品でも積極的に扱ったので、自分自身の戦略でマーケットを作れたんですね、そこで、ソニー・ピクチャーズから来る作品もある程度はセレクトして編成する裁量を持たされていたんで、音楽映画は私のところでブッキングして、全国マーケットに流そうということで。ゼロのところからマーケットを構築するというノウハウを学べたっていうのが、群雄割拠するライバルから一歩抜け出す営業部長への近道だったんじゃないかなと思いますね。小規模の作品から、それこそ500スクリーンとか600スクリーンクラス、『スパイダーマン』は1000スクリーンまで広げましたので、小さいものから大きいものまで、作品の規模に合わせて自由自在にマーケットをコントロールできるっていうのはアピールポイントになりました。他のメジャー各社の営業部長クラスって、そこまでフレキシブルにできる人っていなかったんです。なので、割と映画業界では目立つ存在でいられたっていうのはありますね。また、ソニー・ピクチャーズの新代表に就任されたマネージングディレクターと前任の代表がすごく気にかけてくれた。そういうご縁もありました。営業部長就任は50歳で、57歳で営業統括部長に就任しました。

60歳定年を機に独立、音楽映画を武器に新たな船出

マリブコーポレーション映画事業レーベル「サンタバーバラ・ピクチャーズ」のムービング・ロゴ(同社配給映画の冒頭でこの画像が流れる)

60歳定年を機に退職。営業統括部長に就任した頃から、定年後は、嘱託で残ることなく自分でやろうと考えていました。マリブコーポレーションを設立するときに、何を軸にしようかと思い、音楽映画をずっと手掛けたいなっていうのがソニー・ピクチャーズ時代から思っていましたので、これを一つの売りにしようと。ビジネス的な側面で言うと、小さい会社なので宣伝費を投入する体力はないですが、音楽映画はターゲットが明確に決まっているので、そこから始めていって、体力がついたらハリウッド映画をやっていこうと思っています。今は邦画全盛の時代ですけど、弊社はあくまで洋画中心、ハリウッド映画を中心にやっていこうと。会社員時代も、起業してからも変わらずに思ってきたのが、絶対に人を裏切らず誠実であること。松竹時代、仕事相手は個人でやっている映画館が多かったのですが、相手を信頼して経営が大変そうだから、売掛金は来月でもいいよとかやっていたら、突然倒産されて、売掛残が残っちゃうとか。人を信じていて逃げられる喪失感。転職後の会社でもいろいろありましたけど、誰かが手を差し伸べてくれて支えてくれる。自分自身もそういう存在でありたいですから。

夢見る大人を増やす - 今後のビジョン

今後のビジョンは、「夢見る大人を増やしたい」が弊社のキャッチコピーですけど、私みたいに定年退職した人、リタイアする人間がたくさんいるんで、そういう人を受け入れられるぐらいの規模の会社に成長させたいんですね。また、私が持っている映画業界のテクニックとか知見は若い人よりも当然あるわけですから、20代~30代の映画業界、特にハリウッド映画とかアメリカ映画、いわゆるメジャースタジオに憧れている若者には、私の培った経験をすべて提供しようと思っています。今、ハリウッド映画はマーケットがシュリンクしていて、メジャーな配給会社の日本支社がどんどん閉められているんですね。だからこそ、そこで夢を持って働いてもらって、また日本でハリウッド映画の地位が上がるように頑張ってもらいたいと思います。かたや、シニア世代の方々で、まだ働けると思っても、私みたいに思い切って会社を起こせる人は決して多くはないですから、そういった人たちが元気になれるような、自分の居場所が映画業界で確保できるような何かを提供して行きたいと。人材開発とリタイア後の活躍の場を作る。この二つをテーマに事業に取り組んでいきたいと思います。

取材/アレス(副編集長) ライター/長澤千晴 動画/村上倫弘(グランツ) 撮影/守安法子(編集長)

山口和浩氏 プロフィール:

1963年生まれ。マリブコーポレーション代表取締役。大学卒業後、松竹に入社し、劇場映画担当、映画配給部門として活躍後、ワーナー・マイカルで上映番組編成を担当。その後、ソニー・ピクチャーズでハリウッド映画等の配給を担当し、会社の顔である営業部長、営業統括部長を歴任。60歳の定年を機に2023年に独立し、現職。映画配給・宣伝プロデューサーのほか、人材開発、ビンテージカー販売まで手掛ける

マリブコーポレーション公式サイト:https://malibu-corp.com/

取材後記:

世界に冠たる映画配給会社にて、営業責任者として“業界の顔”として活躍された山口氏。今現在も映画配給の場に身を置き、後進の育成も担われている同氏ですが、決して順風満帆ではなく、在籍された各社で壁にぶつかりながら、困難を一つ一つ克服されてきたからこそ、今があることがわかります。起業されたマリブ社で、今後どのような事業展開がなされるか興味が尽きません。

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう