3代目 尺八アーティスト佐藤公基様
昨日から2日間でご紹介する佐藤公基さんはご家族全員が和楽器奏者または民謡歌手というサラブレッド!伝統的な尺八という楽器でジャズやポップス、ロックを演奏し、その未開の可能性を創り出すアーティストです。尺八が持つ様々な音色をいかに現代音楽とコラボレーションさせるのか。型破りだが尺八の伝統を尊重する若手奏者にその考えを聞きました。
育英環境
◆みどころ
―大学卒業後、プロに
―何を以って古典と呼ぶ?
―30代以降の夢と展望
編:お父様は初代錦水さんからの二代目の佐藤錦水さんですよね?
佐:はい。現役の尺八奏者です。
編:お父様にも尺八を教わったりなさるんでしょうか?
佐:それが父には教わったことがないんです。元来が「技術は見て盗め」という精神の人ですから。
編:では大学に入ってからご自分で思考錯誤を繰り返しながら尺八を模索されてきたんですね。
佐:そうですね。尺八奏者という実例は父が身近におりましたので理解していましたから、自ら積極的に大学在学中から様々な経験をするように努めてきました。大学2年生の時には僕自身初の海外演奏をしました。ロンドンにある大学の民族音楽学科の学生たちが日本の民謡を学ぶ年だったそうで、そちらが開催するコンサートに和楽器奏者のゲストとして呼ばれました。津軽三味線と尺八の民謡グループ「あべや」で民謡中心に演奏していたのですがそのメンバーとして参加したんです。
編:自らと同年代の学生に演奏を披露されたんですね!
佐:まさに異文化交流活動で、とても刺激を受けた体験でした。しかもそのロンドンから成田に帰国したのですが、そのまま飛行機を乗り換えてロスへ飛び、3週間のホームステイをしたんですよ。
編:すごい過密スケジュールですね。
佐:ロサンジェルスでは語学習得という経験はもちろんのこと、尺八がどこまで通用するのかと色々なことを思考錯誤しました。路上で尺八を吹いて、道行く人にコインを投げ銭してもらったりしたのも良い経験でした。ちなみにロサンジェルス空港で、税関のチェックの際に尺八がなんだかわからなかったみたいで、別に呼ばれたんです。「これは武器なのか?」と聞かれたのでロサンジェルス税関でその場でジャズを吹きました。税関の方も「おお!楽器なのか!アメージング!」と言ってくれました。
令和時代の尺八を模索する活動を続ける
編:税関の方、役得でしたねえ(笑)。
佐:実は尺八って、日本よりも例えば中国、アメリカ、ロシアなどでブームになっているんですよ。アメリカ人は、尺八も篠笛も「ジャパニーズ バンブー フルート」と呼びます。帰国してから改めて、日本という国のすばらしさを実感しましたし、その国の伝統文化である尺八奏者としての使命をもっと感じるようになりました。
編:学生時代から積極的に活動なさっていたのですね。
佐:はい、そういう経験が功を奏したのか、卒業した後には外務省が主催するジャパンフェスティバルに参加させていただきました。ドイツのケルンとデュッセルドルフでSAMURAI J BAND(すでに解散済み)と妹と一緒に公演しました。中国の広州にも行きました。火鍋がすごくおいしかったのを覚えています。
編:プロになる前からプロのような活躍をなさっていたんですね。
佐:卒業してプロになってから篠笛もやるようになりました。お祭りの曲だと笛の方が合っていますし、民謡で生きていくには笛は必要ですね。曲に合わせて使い分けます。基本的には尺八奏者ですけれど。
長さ、太さで違う音色を奏でる尺八
編:尺八だけでも種類が沢山あるのに、さらに篠笛まで。
佐:それにより、プロの尺八奏者として様々な挑戦をしつつ、古典的、伝統的な民謡の灯を点し続けるという重要な役割も少し担えているかなとは思っています。
編:まさに伝統と現代を体現されているのですね。
佐:可能な限りの挑戦はしたいと考えていまして、これまで、異なるジャンルの6-7グループに尺八奏者として参加して活動してきました。イケメン揃いの「桜men」、尺八とロックのユニット「IZANAGI」、津軽三味線と民謡中心の「あべや」、舞踊もあり全員が幼少期から民謡と共に育った「RENMA」など... それぞれが目指しているゴールがあって、そのすべてが尊いと考えています。
編:今はフリーランスで活動なさっているとのこと、スケジュール管理も大変ではないでしょうか。
佐:そうですね。ただフリーランスだからこそ、自分の直感で動けるし、自由にユニットを組むことができるメリットも享受できています。色んなジャンルと親和性のある尺八の可能性を再確認できたのはとても良かったと思っています。
ついこの間は、DA PUMPさんと桜menでコラボさせていただきました。
ジャズもロックも尺八で奏でる
編:すごい!DA PUMPさんのISSAさんも日刊スゴい人に出ていただいています。
佐:そうなんですか。フリーランスだから、団体行動や人付き合いの難しさなどの音楽以外のことも沢山自身で学ぶことができました。嫌われるのは全く苦になりませんが、伝えたいことが伝わらないことは辛いですね。言葉で伝わらないなら演奏や所作で示すしかないと思います。
編:たくさん苦労なさっているんでしょうね。まだ20代でそんな風に考えられることがスゴいです。
佐:いえいえ、親の背中を見て来て、色々なことを学ばせてもらったおかげです。
編:ご両親がお弟子さん達をご指導なさるのを、よくご覧になっていたとか。
佐:はい。今も数百人のお弟子さんがいますけれど、30~40年前の民謡全盛期には千人近くのお弟子さんがいて、ディズニーランドみたいに「〇時に来てください」って整理券を配っていたくらいでした。稽古場の前にズラーっと行列ができていたそうです(笑)
編:えー。すごい。そう聞くと、今の日本人はすっかり民謡や和楽器から遠ざかってしまった気がします。大事なものを失っていないでしょうか。
佐:民謡ブームに乗って偽者も多く出てきたのも人気低迷の一因かもしれません。
編:でもコロナでふるいに掛けられ、本物だけが残っていくと思うんです。芸術に限らず、どこの業界も同じことが起きて来ていますしね。
佐:そう願いますね。ありがたいことに僕は運を持っているのか、この状況下でも稲垣潤一さん、江頭2:50さん、星野源さんの曲を尺八で拭いてSNSにアップしたところ、ご本人方が連絡を下さったんですよ。
編:スゴーい!強運も確かですが(笑)、アーティストの皆さんはすぐに本物だ!とピンと来て喜ばれたのではないでしょうか。どんどんカバーをしてほしいです。
佐:もしポップスをどんどんカバーしてたくさん上げたら、きっと和楽器の良さを感じてくれる人が増えてありがたいとは思うのですけれど、やはりプロですからそこは質にこだわりたいんですよね。そこは敢えてスローにやって構わないかなとも。YouTubeではだれでもいつでもアップロードできますから。そこで確実に選ばれる品質にこだわりたいんです。
編:その発想がプロであり、なぜか古典の要素を感じますね。
佐:僕自身は伝統と現代の間を生きていて、古典とか伝統ってじゃあ何なんだ、誰が決めるんだと自問し続けている日々ですが、自分自身から出る作品に対して責任と覚悟を持って臨むことも一つ古典や伝統としての存在かもしれないと思います。
編:代々伝わってきたからこそ持てる責任力でしょうか。
佐:SNS上で“古典を吹けないのにポップスやジャズを吹いてプロ活動するのはいかがなものか論”が持ち上がることが度々あります。僕は肯定も否定もしません。ただ、せっかく日本人のDNAを持っているのなら、イン・テンポ(正しい速度)ではなく、基本的に引き算の音楽である日本音楽の「ゆらぎ」がある「間」を学べるチャンスが古典にはたくさんあるから、学べば演奏に深みが増すのになあ、とは思います。
和楽器の魅力をもっと日本に!そして世界へ!
編:現代のダンサーさんたちがクラシックバレエの重要性に気付いて習い始めるのに通じるような。
佐:でも同時に、音楽の歴史に名を残しているのは、受け継がれた古典だけをしている人ではなく、好きに挑戦もした人たちなんですよ。例えばお正月によく流れる「春の海」も、宮城道雄先生がご自分で書いた曲が今となっては古典と評価されています。今を生きる令和の我々も新しく作り続けることが大切です。歌舞伎の世界では、スーパー歌舞伎や坂東玉三郎先生の鼓童などは、先駆者が「守りながら攻める」顕著な例ですね。
編:古典的な雰囲気だから古典、ではないんですね。
佐:何を以って古典と定義するのか、難しいです。僕が作ったものが、死後50年くらいに「これは古典でかっこいいよね」って言われていればいいかな(笑)。そういう意味では歌詞が個性的な「うっせえわ」もいつか古典になるかもしれませんね。
編:確かに。あの歌詞の一節の通り、皆にお酒を注いだりお料理を取り分ける女子が評価される時代がかつてあったんですよ。
佐:それ、今の時代ではしっかりパワハラですよね。今までもこれからも時代は流れ、「古典」は作られるのだと思います。
編:今回いただきました表題「育英環境」というのはどういう意味なんでしょうか。
佐:民謡界の第一人者である後藤桃水先生の遺した言葉なのですが、環境が人を育てるという意味です。僕自身が大切にしているのは「継続は力なり」です。曾祖父が始めた尺八奏者という職業、そして家族が大正、昭和、平成と継いでいなければ、今の僕はなかったわけですし、音楽をやっていなければ今の仲間にも出会えなかったし、今日の取材もなかった。感謝しかないですね。
編:若手の和楽器奏者としてまだまだ新しい挑戦をされるのでしょうね。ますますのご活躍を期待しております!
(了)
取材・校正:NORIKO ライター:MAYA 撮影:株式会社グランツ
【取材を終えて】
民謡を聴くとDNAが騒ぎませんか?先祖たちが民謡に支えられて生きてきたのがわかる氣がします。佐藤公基さんの演奏にこれほど心つかまれるのは、脈々と受け継がれて来た一流の技量と深い情緒と共に育った、尺八への愛と情熱があってこそと痛感しました。
演奏中のエッジの効いたクールな容姿とは対照的に、インタビュー中は、ご両親譲りのとても整ったお顔に無邪気な笑みを浮かべて気さくに応じて下さったのが、とても印象的でした。
時代を読む力と知性、自由な行動力、そして人を大切にする懐の大きさは、これからも尺八の魅力を伝えていくための大きな助けとなるに違いありません。実力と人生経験みなぎる佐藤公基さんが、満を持してソロで魅せる30代のご活躍もとても楽しみです!
◆佐藤公基氏 プロフィール
東京都下町根岸出身。民謡一家の長男として生まれ、幼少より家族に手ほどきを受け舞台活動を始める。
2000年 少年少女民謡東京大会において優勝。
2008年 尺八を善養寺恵介師に師事。
2011年 東京藝術大学音楽学部邦楽科尺八専攻に入学。2015年に同大学を卒業。
2018年 演歌歌手 "藤あや子" の専属尺八を務める。同年、女性和楽器ユニット「SAKURA J SOUNDS」のファーストアルバム「CHERRY BLOSSOM」のサウンドプロデューサーを務める。
2020年 和楽器パフォーマンス集団「桜men」としてavexよりメジャーデビュー。和・洋楽などジャンル問わず、数多くの楽曲・アルバムをリリースしコンサートやレコーディングなど国内外で活動中。
日本民謡協会青年部講師補佐。全国各地で学校公演活動を行っている。
音楽制作チーム「ONE TONE」として和に特化した作編曲・楽曲提供活動も数多。
尺八に対する先入観、固定概念に縛られる事なく「らしさ」を追求しながら、また民謡で培ってきた「うた心」を大切に演奏している。
HP : https://www.koukisato.info
Instagram : https://www.instagram.com/kokisato108/
Twitter : https://twitter.com/kouki_shaku8
【参加グループ】
・あいおい (和楽器オーケストラ)
・あべや (日本民族音楽芸能集団)
・IZANAGI (尺八&ギターユニット)
・桜men (和楽器パフォーマンス集団)
・MIKAGE PROJECT (民謡プロジェクト)
・れんま (民謡グループ)
・ONETONE (音楽制作チーム)
【ライブ情報】
MIKAGE PROJECT “壮途”
~1stEP 「MIKAGE PROJECT」リリース記念ライブ~
2021年8月1日(日)浅草花劇場
OPEN 15:30 START 16:00
チケット全席指定 \4,000-(税込・ドリンク別)
問い合わせ:info@alive-japan.com