英国で演劇を学び、音楽朗読劇の第一人者となったスゴい人!DAY2▶藤沢文翁さん

劇作家・藤沢文翁様

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朗読劇をご存じですか。ただ声に出して読む芝居。そんな先入観を持つ多くの人の予想を超えるのが藤沢文翁さんの朗読劇です。作・脚本・演出を自ら担当し、英国朗読劇や日本古典の落語、オペラを取り入れた独自のスタイルの音楽朗読劇『藤沢朗読劇』を確立したご本人です。従来の朗読劇とは全く違ったエンターテインメントとして注目を浴び、「本当にチケットが取れない朗読劇」と言われています。演劇の世界に生きるべく生をうけ、演劇とともに生きてきた、藤沢さんの半生を伺いました。

 

ロンドンでデビューしたのちに帰国。声優・山寺宏一さんとの出会い

──卒業後、しばらくはロンドンにいらっしゃったんですよね。

ロンドンに来たからには、大学を出るのは当たり前。僕はロンドンでのデビューを目標にしていました。自分に課した課題が「何かをロンドンで上演すること」でした。もともと演出家志望だったんですが、僕はシェイクスピアをちょっと書き換えてみました。すると「これは向いていないけれど、面白いから1本書いてみて」と勧められて書き上げたんです。これが2005年、ロンドンで上演されることになりました。

 

──ロンドンでデビューの目標が叶ったんですね!それから日本に帰国されたのでしょうか。

完全にロンドンを撤収したのは2008年ですが、それまでも日本とロンドンを行き来していました。その頃に出会ったのが山寺宏一さんです。共通の友人の飲み会でご一緒して、紹介してもらいました。僕は落語も聞くんですが、山寺さんも落研出身。意気投合して盛り上がりました。

 

──偶然の出会いですね。山寺さんとは、その後多くの作品を作られましたよね。

日本は原作つきの作品が多く、オリジナルをやれる機会が少ない。特にテレビや映画はそれが難しい。さらに不景気でもあったので、何だったらいいのか考えました。当時、演劇業界は損益分岐点が7割から8割とかかなり高かったんです。それを5割まで下げるとリーズナブルですよね。さらにファッションショーのようにこんなお話があると世の中に提示することもできます。そこで朗読劇を考えていました。

そのタイミングで7色の声を持つ山寺宏一さんに出会ったんです。これはもう奇貨居くべしとばかりに台本を渡しました。

山寺さんは読んでくださっただけでなく「面白いからぜひやりたい」と仰って、林原めぐみさんを連れてきてくれ、上演することになりました。

「お礼は俺のためにいい話を書いて」窮地を救ってくれた山寺宏一さんとの約束

──まだ日本での活動は少なかったと思いますが、ベテランである山寺さんと一緒に公演することにプレッシャーはなかったんでしょうか。

その辺が僕は鈍感で。それに山寺さんはめちゃくちゃいい人なんですよ。2014年、舞浜アンフィシアターで舞台をやっていたんですが、その時、井上和彦さんが体調不良で前日降板したんです。本番まで24時間という切羽詰まったタイミング。どうしようもなくて、ダメ元で山寺さんに電話をして代役を打診しました。案の定、予定は既に埋まっていましたが日曜は確保できるということだったので、土曜は他を当たることにして一度は電話を切りました。ところがすぐ折り返しの電話があって、山寺さんが「よく考えたら俺しかできるヤツ、いないじゃん」と、引き受けてくれることになりました。台本やこれまでの録音をすぐに送って、来られないかもしれないと言っていたその夜のゲネプロ(編集注:本番と同様のリハーサル)にも駆けつけてくれました。

 

──無理を押してゲネプロから参加してくれたんですね。

はい。和彦さんの場所に山寺さんが立ち、山寺さんがわからないときに教える代読の人が横に座ってゲネプロがスタートしました。

そのゲネプロがすべて終わったとき、一度も噛まず、何一つミスを犯さなかったのは『山寺宏一』ただ一人でした。しかもPAさんが「山寺さん、皆がやりやすいように和彦さんと同じピッチで話してる」って言っていて。神ですよね。

帰るとき、同じ方向なので車に乗せてもらったんですが、山寺さん、ずっといろんな人に電話で謝っているんですよ。世話になってる作家さんでここで恩を返すしかないからって。電話の向こうからは、山寺さんがそこまで言うなら。って声が聞こえてきました。山寺さんがどれだけしっかり仕事で信頼を得てきたのか、そしてその山寺さんが頭を下げれば、全部がクリアになっていく。僕はもう泣けてきました。

 

──凄いですね……。

どうやってお礼をしていいかわからないと言う僕に、山寺さんは自分のためにまたいい話を書いてよと言ったんです。そして書いたのが「Mr.Prisoner」という作品。絶対に声を聞いてはいけない囚人の話です。完全に山寺さんを当て書きした作品で、日比谷シアタークリエで上演しました。その初日、何も言っていなかったんですが、家に帰るとメールが来ていました。なんだろうって見てみたら、「あのときのお礼、確かに頂戴しました。山寺宏一」って書いてありました。

 

──かっこいい!ドラマのようです。

人の出会いは不思議です。

実は祖父が本田宗一郎さんと出会ったのも、たまたま四ツ谷駅でトイレが一緒になった祖父と本田さん両方を知っている竹島さんという方の引き合わせです。竹島さんはこの2人を引き合わせただけで、歴史からは消えるんです。

僕の周りの話を聞いていても、不思議な巡り合わせがあって、そこから何かが始まっていく。脚本なら出来すぎてお話にならないようなことが、現実では起こります。僕は山寺さんに見つけてもらったと思っています。

公式マスコットBlack Teddy

「本当にチケットが取れない朗読劇」と言われる藤沢朗読劇とは?

──藤沢朗読劇は日本の芸能と英国の朗読劇の要素を取り入れたとお聞きしますが、日本と英国の朗読劇の違いはなんでしょうか。

一番の違いは英国文学は音読前提で作られている点です。日本の文学は黙読前提なんですよね。字で見ればわかるけれど聞くだけではわからないことがある。朗読劇では耳で聞いても一発でわかる言葉選びや言葉運びをしなければなりません。

また従来の日本の舞台や映像作品はト書きやナレーションが多過ぎるので、僕は落語の手法を加えています。落語はト書きなしで会話の中で成立させます。例えば誰かが入ってきたときに「おいおっかあ。布団出してくれ。寝る布団じゃない、座布団だ」と言った瞬間に、そこが寝る場所でもありリビングでもあるとわかる。江戸の貧乏長屋のイメージを伝えられます。

「その時彼らはこう思いました」という客観的に説明するト書きをゼロにすることで観客に想像させ、そこに西洋の音読を前提とした台本を合わせて作っています。

 

──会話劇で会話だけに絞るのではなく、会話の言葉によって世界を表現し伝えるということですか。

会話だけだと観客はついていけなくなりますから。

見てくださった方は自分の想像力に驚くのではないでしょうか。一番人間が古くから持っているものが空想力、想像力なんです。3Dや4Dという表現や技術が出てくるのは素晴らしいことですが、想像力を使う場所が現代では減ってきています。

想像力を引き出すことで、お客様それぞれが持ち帰られる朗読劇です。

 

──DVD化もされていますよね。朗読劇は音のドラマですが、音だけではないんですね。

衣装も舞台セットも演劇のように作り込んでいますし、マジックで使うフラッシュペーパーを燃やしたりもしています。演劇との違いは照明の使い方の自由度です。舞台では照明が置けない場所がありますが、朗読劇は基本的にキャストが動きませんので照明のセッティングがより自由なんです。

「逆境はウィンドサーフィンのようなもの」溺れないために帆を操る

──今、エンタメ業界は大変な時期だと思いますが、舞台を作る上でどのようなご苦労がありますか。

ご苦労というより、むしろオリジナル作品を上演できる時代になったという実りがありました。本当に苦労をしていなくて。舞台作品が映像化される機会もできました。僕個人の展望としては、舞台でやったものを原作提供して、どんどんメディアミックス化していきたいと考えています。今は原作が不足している時代だと思うんですよ。でもゼロで作れるかというと複数いるプロデューサーたちの話を集めているうちに、船頭多くして船山に登る状態になってしまう。朗読劇をオリジナルをやることで、実際に物語を見て知ってもらうことができます。僕の時代では、これをアニメや映画にできませんかと提案していくようになるんじゃないかと思います。

 

──今回のコロナ禍を逆風ではないと捉えられていますが、もし逆風が吹いたらどうされますか。

結局、ウィンドサーフィンと同じだと思うんですよ。風が逆風でも帆の向きを変えればいいだけです。ほとんどの人が逆風について考える時間が長すぎるんです。スヌーピーの言葉で「人間配られたカードでしか勝負できないのさ」というものがあります。その感覚って大切で、波に飲まれないためにはどこか開き直りは必要です。

逆風が来ても考えたからって逆風が変わってくれるわけじゃないですから。

あと、そういうときには「多くの人が取るだろう行動を考え、その行動の反対を考えてみる」ことでしょうか。

 

──今後について伺えますか。

あまり先のことは考えない方がいいと思っています。今は緊急で特殊な状況ですから。僕は今のところは舵取りができていますから、先のことはコロナが収束してからです。

決めたら腰を据えます。先程言ったこと矛盾しているようですが、大きな主軸を作るということです。主軸を決めてしまったらあまりバタバタするのも良くないんです。

物語の原作、原点を作っていくこと。これがブレていなければ、あとはもう少し様子を見ようと思います。

(了)

インタビュー/ライター:久世薫

藤沢文翁(ふじさわぶんおう) プロフィール:

劇作家・舞台演出家。幼少期から祖父である藤沢武夫氏の影響でオペラや演劇に親しむ。高校卒業後にイギリスへ留学。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジにて演劇を学び、2005年にはロンドンで『HYPNAGOGIA』を上演。劇作家・演出家としてデビューをする。帰国後は舞台だけでなく、ゲームシナリオライターや漫画原作者など幅広いジャンルで精力的に活動している。朗読の枠を超えた『藤沢朗読劇』に取り組み、現在では音楽朗読劇創作の第一人者と言われている。

 

SNS等

Twitter:https://twitter.com/FujisawaBun_O

公式サイト:http://www.bun-o.com/

 

 

 

 

 

 

 

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