今週ご紹介するのは、『ONE PIECE』の歴代オープニング曲や『サクラ大戦』シリーズの全楽曲をはじめ『ジョジョの奇妙な冒険』、『かいけつゾロリ』、『天外魔境』、『笑ゥせぇるすまん』、『エスパー魔美』など、アニメ・ゲーム音楽史に残る名曲の数々を手がけてきた巨匠、田中公平様。今年で活動40周年の田中氏に作曲家になった経緯から、長きに渡り売れ続ける秘訣、今後の構想まで、知られざる“スゴい”エピソードを 4 日間お伝えします。
令和リニューアル記念4日連続インタビュー
DAY3
現役大学生インターンとの特別対談
アニソン&ゲーム音楽界の巨匠に学ぶ、生き方のヒント
今回は現役の大学生がインタビュアーとなり、アニソン&ゲーム音楽界を代表する作曲家であり人生の大先輩でもある田中さんに、将来役立つヒントを伺います。
学生(以下学):よろしくお願いいたします。
田中さん(以下田):よろしくお願いいたします。
学:40年に渡って第一線で活躍されている田中さんでも失敗することはあるんですか?
田:失敗はいくらでもありますけど、たいした失敗じゃないですよ。死なないもん。まぁ交通事故で轢かれそうになったことは何度もありますけど(笑)。
学:プロとして、失敗することのプレッシャーを感じたことはないのでしょうか?
田:ありますよ。普段は自信満々の私も、初めてNHKに生放送で出演することになった時は珍しくナーバスになってしまって。その時、緊張している私を見た妻が「失敗したってええやん。あんたは芸能人でもないし、テレビの仕事が無くてもええやん」と言って勇気づけてくれたんです。確かにその通りだなと思って、それ以来、テレビに出演する時はいつも自分の部屋にいるような感覚ですよ(笑)。
学:さすがですね!
田:みんなもそうだけど、場が違うからといって肩肘張る必要は無いんですよ。普段通りにやればいいの。どうせいつもの自分しか出せないんだから。
学:わかっていても難しそうですが……。
田:ダメだったら仕方ないじゃない。毎日やってることが本番で出るんだから。例えば歌だって、いきなり上手く歌えるわけなんかないでしょう? 毎日必死になってやってるから歌えるんですよ。
学:気負わないでいられる秘訣はないでしょうか?
田:私は人生の中でずっと決めていることがあって、それは「無理をしない」ということなんです。例えば、海外公演で日本人は私一人だけということが何度もあるんですけど、「歌ってて歌詞を間違えても(外国の観客は)あんまりわからんから別にええやろ、日本語やし」みたいな。ピアノを弾いて間違えても「ゴメン間違えちゃった。もう一回やるね」という感じ(笑)。
学:昔からそんな楽天的な感じなんですか?
田:そうね。もちろん、きっちりすることは大切ですよ。当たり前やし。でも、ちゃんとしていても失敗する時ってあるじゃないですか。その時に取り繕わないのが一番いいね。バレるよ。お客さんとかに。それで評価を下げるくらいだったら「あれっ? ゴメンね間違えちゃった」って言ったほうがいいじゃない? ステージの上だけじゃなくて仕事全般に関して言えることですけど。もし失敗したら、まだ自分の実力はその程度なんだと受け止めて、ちゃんと素直に謝ったほうがいい。一番はとにかく周りに好意を持たれることですね。
学:わかりました!
田:「沈黙は金なり」なんて無いからね。死ぬほど喋ったらいいよ。アメリカ行ってごらん。みんなすごく喋るから(笑)。
学:田中さんは本格的な作曲活動を始める前に、ボストンのバークリー音楽大学に留学されてるんですよね。
田:バークリー音楽大学にはジャズのことを勉強しに行ったんです。クラシックとかポップスは誰にも負けないほど知識があったんですけど、ジャズに関してはあまり詳しくなかったので学びに行こうと思ったんです。
学:あえてアメリカにですか?
田:そりゃあ本場で学ぶのが一番でしょう? 日本の音楽界は“型”を知らないで崩そうとする人が多すぎるんです。基礎もできていないのに変化球を投げたがる人がどんなに多いことか。歌が下手くそな人がいくら頑張って歌ってもダメ。型を知らないで進むと「型なし」になるんですよ。型を知って、崩すことではじめて「型破り」になるわけ。
学:なるほど、勉強になります。型は人から学ぶものですか?
田:間違いなく自分で学ぶほうがいいと思います。だから私も留学したんです。今でこそコンピュータで打てば仕上がりがどんな曲になるかすぐわかりますけど、当時は譜面でしか判断できなかった。あの学校は実践的ですごかったですよ。書いた曲を持っていくと、「おぉ、これいい曲だなぁ」「やってみよう」「おー、ありがとう」なんて、演奏してくれるバンドがいっぱいあるんです。
学:やはり留学は経験したほうがいいでしょうか?
田:めちゃくちゃいいですよ。英語を学べるだけでなくて、日本ってどういうところなのかよくわかります。例えば白地図を見せて、アメリカ人に日本がどこにあるのか聞いてみたら、中国の真ん中とか、オーストラリアの方とかを平気で指さしたりする。日本人が思ってるほど日本のことなんて知られてないんです。でも今なら「Oh アニメ! ゲーム!」って言われるし、日本の歌といえば、みんなアニメソングを口ずさむ。日本では未だに一段下に見られることもありますが、世界ではリスペクトされていることを肌で感じますよ。留学することで自分の立ち位置がわかるよね。
学:日本のアニメが海外で注目されることに対してはどう思われますか?
田:素直に嬉しいですね。私のやるべきことは、日本のアニメやゲームを通じて世界中の子供たちにアクセスすること。これはもう20年以上前に見つけていて、そのためだけに生きています。
学:やるべきことは、どのようにして見つけたんですか?
田:やってるうちにわかりますよ。私は世界をまわって見えてきました。海外公演をすると赤絨毯だからね。「大統領か!」みたいな(笑)。サイン会をすれば半分くらいは感激して泣いてくれますよ。こちらは感動させるつもりなんてないし、そんなおこがましい事は思っていない。でも、そこまでしてくれると、期待に応えなきゃという気持ちになりますね。
学:やりたいことが見つからない、いろいろあって絞れないという学生にアドバイスをいただけますでしょうか?
田:本当にやりたいことがあったら門が自然に開くと私は思いますよ。イヤイヤやってたら続かんよ? 例えば作曲するにしても、「やらないといけない」とは全く思わない。毎朝、5時頃起きたら、「今日は何曲書けるのかなぁ」って考える。書く機会が与えられていることを「嬉しい」「ありがたい」と思ってやってます。例えば『ONE PIECE』でも、映画の音楽を全部任せてくれて「あなたしかいない」と言われてさ、それを生き生きとやらない意味がわからない。だから、ワクワクすることを探してみたら良いんじゃないかな。
学:では最後に、僕たち学生へのメッセージをお願いします。
田:あんまりスマホばっかりやらない方が良いよ。いじるなら一日何時間と決めたほうがいい。本を読め、ってのもあるんだけど、どんなヤツでも良いから、人に会っとけ、と思いますね。今はSNSもあるし、会ってくれない人なんて中々いないんじゃないかな? 会いたいと思う人がいればアポイントを取ればいいですよ。
学:簡単に会ってくれるでしょうか?
田:年上の人なら「美味しいもの食べさせてほしい」とでも言ってごらん(笑)。可愛がって面倒見てくれる人も多いと思いますよ。悲しいかな、人間って経験でしかモノを語れないから。人生経験のある人はいろいろと語ることはできるけど、若いうちは経験値がないから語れない。だから背伸びしなくていいの。無理をしなくていいんですよ。
学:とても勉強になりました。本日はありがとうございました。
インタビュー:アレス 編成:Wahsy ライター:西秀進 学生:阿部颯樹(上智大学4年)
(明日へ続く)
◆オフィシャルブログ:田中公平のブログ My Quest for Beauty
https://ameblo.jp/kenokun/
◆株式会社イマジン 田中公平
http://www.imagine-music.co.jp/artist/tanaka/
◆『翼を持つ者 ~Not an angel Just a dreamer~』楽曲公式サイト
http://avex.jp/tsubasa-project/
◆『翼を持つ者 ~Not an angel Just a dreamer~』楽曲公式Twitter
https://twitter.com/tsubasa_PR
◆『アニメNEXT_100』公式サイト
http://anime100.jp/index.html
◆Amazon:田中公平作品
http://amzn.to/2kKph56
◆Profile
田中公平(たなか・こうへい)
作曲家・歌手
1954年大阪生まれ。
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業.
ビクター音楽産業(現・ビクターエンタテインメント)勤務後、米国ボストンのバークリー音楽学院に留学。帰国後、本格的に作・編曲活動を始める。
アニメ『ワンピース』、『ジョジョの奇妙な冒険 第一部』の主題歌や、ゲーム『サクラ大戦』の主題歌をはじめ、アニメやゲームの音楽を多数手掛ける。
近年は作曲活動のほか歌手、演奏者として国内外でライブも行っている。
2002年 新世紀東京国際アニメフェア21にて、『ワンピース』でアニメーション・オブ・ザ・イヤー音楽賞を受賞。
2003年 『サクラ大戦』で第17回日本ゴールドディスク大賞アニメーション・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。
2017年 『アニメ100周年アニバーサリーソング「翼を持つ者 〜Not an angel Just a dreamer〜」』。ささきいさお、水木一郎、堀江美都子、串田アキラなど、レーベルを超え集結した豪華アニソン・声優アーティスト23組が参加する、アニソン版『We Are The World』を目標に制作された本作は、「アニメNEXT_100」の公式ソングにも決定した。