今週ご紹介するのは、OriHime(おりひめ)という分身ロボットで「孤独」の中に暮らす人へ光をもたらし、その「孤独」を消すために日夜戦い続けるスゴい人。20年前には存在しなかった職業、ロボットコミュニケーターとして日夜「会えない人に会いにいく」その方法を考え続けている人である。子供時代に自分が体験した「孤独」の中に、今まさに暮らしている人々へ光を届けようとしている。そのスゴい足跡と熱い想いを4日間お伝えします。さあ、オリィこと、吉藤オリィ様の登場です!
令和リニューアル記念4日連続インタビュー
DAY4
これからの「新しい」とは何か
編集部(以下編):本日もよろしくお願いいたします。
吉藤オリぃ(以下吉):平成は男女平等が当たり前といわれていましたが、それができていたかどうかは別としても、たぶん昭和はあきらかに平等ではなかったよね。平成だってそうはいっても実は平等ではない現実があったけど、じゃ令和はどうなるのだろうと。いくら「平等だよ、僕らはみんな平等なんだよ。」って言ったとしても、世の中は全然平等なんかじゃないんですよ。大体の人は「僕らは差別なんてしていないのだから、ないだろう。」と思ってる。それは差別というものの概念の違いなんです。男女差別というものの概念のない人たちが「私は男女差別なんかしてない。」と思ってるのと同じでね。今のタブーは昭和ではタブーではなかったのだから、結局差別は無いんだ。となる。でもそれは差別という概念の違いなんです。
編:概念ですか?
吉:例えば、「年上の人を敬うこと」とか、敬語を使うように求める雰囲気ってあるじゃないですか。反対に多くの人は自分よりも年下には敬語を使わない。のだけれども。平等か平等でないかという概念で考えるとこれは平等ではないんです。しかしだからといってそれを差別だととらえてもいないわけですよ。そこになんの違和感も感じていない。だから自分は差別などしていないという意識でいる。これがね、例えばもっと大きな差別に置き換えて考えるとよくわかりますよ。たとえば黒人を差別していた時代、平等ではなかったその時代は、人々はそれを差別だとは考えていないわけです。そんなもんだと。黒人を差別しているという概念が無いのだから、それは差別だと認識されていない。さっきの年下への差別も違和感をかんじていないのだからそれを不平等な差別だという認識もない。
こういった事実を踏まえて今私が考えているのは、男女平等には少しずつ意識が変化していってるかもしれないけど、老若は平等か?ということ。老若男女すべての人が平等な社会というのはどうしたら実現するのか。といったことです。
例えば旧世代の年上の人たちはFacebookはやってるけど、若者たちはTikTokやってるとかはわかりやすい違いでね。例えば若者が年上の人にTikTokやったほうがいいですよってアドバイスしてもなかなか年上の人って始められないじゃないですか。逆に新世代の人もいや、Facebookとかもう古いんで今更いいっす。とかなっちゃうしね。
編:本当に実際その通りですよね。
吉:人間の旧世代たちは年月を通して経験値を積み上げてきているんですよ。その点においては最先端モデルである新世代は人間の旧世代を超えてはいないわけです。だからね、単純なことなんですが、もっと互いに尊重して教えあえばいいと思っていて。
今の時代、知識なんてインターネット上に転がっているし、情報入手という意味では新世代の方が明らかにスピードが早い。だけどやはり何十年もかけて培ってきたビジネスの手法や経験などはネットでは手に入らないんです。だからその経験値と知識量といったものを交換しあうような場所に平等は生まれるのではないかと思って。
編:お互いリスペクトできるような環境であれば良いですよね。
吉:先生という言い方が、もう先に生まれたから先生みたいなね。ここからなんかおかしいんですよ。今や逆年功序列社会という場面もあると思うんです。新世代に太刀打ちできない旧世代だっている。その場合は10代の新生代は今の30代・40代・50代の人にお金をもらって今のテクノロジーを教えてあげればよいんです。学校はそういう方向性に変わるんじゃないかなと思います。
編:さて、OriHimeの開発自体はほぼ自社開発されているようなのですがすごく大変ではないですか?ロボットという面ではすでに他社で開発されているロボットも、グローバル企業も世界には存在しています。そことの提携などは考えられていますか?
吉:もちろん他社さんの技術で素晴らしいものはいくつか取り入れています。ただ自社開発したほうが良いなというものはできるだけ自社で開発しているという感じですね。OriHimeという分身ロボットもないから作っている。ただ私自身はOriHimeのツールそのものを作りたいというわけではなく、OriHimeの開発のそのあとに興味があるんです。。分身ロボットを使った後で、今まで寝たきりだったり、体が動かせない人がどういう形で社会に参加していけるようになるのか、OriHimeを使うことで新しく始まる物語に強い関心があります。
彼らが社会で就職していくというところ。今まで彼らは斡旋(あっせん)したくてもできなかったんです。企業も何をしてもらえばよいのかわからなかったし、彼ら自身もどうしたらよいかわからなかった。そこの方法論をきちんと積み上げていけばかみ合うんです、お互いが。できなかったことが実現する。
その方法論的なものを解決する試みが「分身ロボットカフェ」だったんです。今まで実現していなかった関係性を新しく作り、噛み合わせてうまくまわる仕組みを作り、ひとつのビジネスモデルとする。これが日本のあちこちにできたなら、今まで病院でただ過ごしていた人たちにっとっても、ある意味トレーニング施設としても機能する部分もあるし、何よりも社会に貢献できることの全く新しい幸せを一つ生むと思うんです。その仕組み自体が利益を生む構造になればもっと参入してくれる企業も増えるだろうし、そこが一つのマーケットとして成立したら我々はまた次の新しい価値創造へ向かえばいいと思っています。
編:それは研究所の強みですよね。やる気がなくなることってなんですか? モチベーションが下がるときというか。白衣がたなびかないとき(笑)。
吉:簡単なことですよ。頭痛がするときとか(笑)。体調がよくないときはやっぱりモチベーションは下がりますよ。だからここ数日は風邪で悔しい思いでいます(笑)。
でも、代替手段がない時のモチベーションは、代替手段がない時と比べると絶対上がりますよね。
編:代替手段がない時というのは?
吉:例えば、利き手の右手がありながら左手で文字を書くのと、何らかの理由で右手を失ってしまって左手で書かざるを得ない状況を比べると、後者の方が絶対的にモチベーションは高いじゃないですか。
編:あー、なるほど、そういう意味ですか。
吉:結構私たちの身近にもある話であって、僕が実際に体験したことなのですが、携帯の文字入力についてです。ガラケー時代のなごりの打ち込み入力と、スマホならではのフリック入力の2種類ありますよね。僕はフリック入力に変えた方が楽だよと若い子に言われたのですが、じゃあやってみようとなるとこれが非常にめんどくさくて挫折したんですよ。でもねスマホの設定でフリック入力しかできない設定にしたんですよ。否が応でもフリック入力しないとテキスト入力できなくしたんです。そしたらね、今はもうフリック入力できるようになりましたよ。
編:すごいー。半ば強制的に。。。
吉:フリック入力が当たり前にできるようになったな~と思ってたら、うちの若い10代のインターンの子は「Hey Siri」とかやってるの。すでにフリック入力さえやってない(笑)。追いつけないですよ、永遠に(笑)。
編:そうなりますよねー。ほんとに。
吉:だからね、日本語話せる僕らは英語勉強しなくても日本で生きていけるけど、日本語通じない英語圏に行ったら、おそらく必死で英語勉強しますよね。日本語通じないから。だから僕はやはり代替手段がない時の方が高いモチベーションでことに当たれると思います。
編:たしかにそうですね。
吉:そろばんで暗算できる人は電卓使わないだろうし、ワードでテキスト入力がすごく得意な人はわざわざペンで書かないだろうしね。
編:ガラケーしか使わないって決めてる人でも、ガラケーが生産中止になったらスマホを否が応でも使い始めたりするでしょうね。
吉:そうそう。僕もプログラミングとか、CADとかのスキルはありますが、ここから10年とかたつと、やっぱり新しいものを学ばないと全然通用しなくなってくるかもしれないしね。休む暇もないですよね、ずっとアップデートし続けないといけませんから。
編:これからもそのあふれ出るエネルギーでどんどん社会へ新しい発想を送り出していただけると期待しております。4日間ありがとうございました。
吉:ありがとうございました。
取材:アレス 構成:Noriko 翻訳(英):Tim Wendland
♦オリィの自由研究部 (β) 吉藤の研究の最先端を覗くオンラインサロン
♦著書 「孤独」は消せる。サンマーク出版 (2017)